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本当のこと
翌日、熱を出した僕はベッドの上でひたすら眠った。時折目を開けて、そばにいるフェリクス様に謝ると「気にしなくてもいい」と言って頭を撫でられた。夕方には熱が引いて起き上がることができるまでに回復した。
「本当にごめんね」
「気にしなくてもいいと言っただろう?」
「フェリクス様の時間を無駄にしちゃったから」
「そんな事はない。何か飲めるか?」
「うん」
汗をかいたからか喉はカラカラになっていた。母がいなくなってからは、体調が悪くても打たれて身体中が痛くてもいつも一人で耐えるしかなくて、こんなふうにそばにいてもらった事なんてなかったからすごく嬉しかった。手渡されたグラスを受け取って喉を潤して一息ついた。
「少し早めに帰ろうか」
「え?」
「家のほうが落ち着く事ができるだろう?」
「それはそうだけど」
「じゃあ、そうしよう。屋敷の皆も喜ぶ」
「ごめんね」
「もう謝るのはなしだ。俺はルシアンと過ごすことができるならなんだって構わないのだから」
「ありがとう」
やっぱり僕はフェリクス様と離れる事はできない。何の力もないけど、守ってもらってばかりの出来損ないだけど、ずっとずっとそばにいたい。
「フェリクス様」
「ん?」
「ずっと僕のそばにいてね?」
「言われなくてもずっとそばにいるから」
「ふふ、ありがとう」
「着替えたほうがいいか?」
「そうだね。汗かいちゃったから」
「着替えてまた眠ったほうがいい」
「フェリクス様は?」
「別の部屋を借りるよ」
「そう……」
「ここで寝たほうがいいか?」
「ううん、大丈夫」
「一緒だと落ちついて眠れる気がしないからな」
「なにそれ」
「眠るまではそばにいるから」
「本当に?」
「あぁ」
優しく微笑むフェリクス様を見て心が暖かくなった。着替えて、またベッドに潜り込んだ。手を伸ばすとそっと握り返してくれて、フェリクス様を感じながらまた微睡み始めた。
「……んっ……」
徐々に覚醒し始めて、瞬きを何度か繰り返して起き上がろうとした。
「ん?」
よく見ると僕の手を握り座ったまま眠るフェリクス様の姿が見えた。
「フェ……フェリクス様!?」
どうしよう。何かかけるもの! いや、ベッドに運んだほうがいい? あー、でもそれは難しいか。とりあえず手を離して考えよう。……いや、全然ダメだ。がっちり握られている。
「どうしよう……」
途方に暮れているとフェリクス様が身じろいで、顔をあげた。
「眠ってしまったか」
「ごめんなさい。こんなところで」
「いや、問題ない。顔色はよくなったな」
「もう大丈夫。フェリクス様は体調大丈夫?」
「よくない」
「え!?」
「ルシアンに触れていないからな」
「もう! びっくりさせないでよ」
「帰ったら触れさせてくれ」
「仕方ないなぁ」
見つめ合って、クスクスと笑い合った。
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