二度目の来訪

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二度目の来訪

 エミール様がやってきた日から数日が経過した。またと言って帰っていったけれど、もう来ることなんてないだろうと思っていたのだが……。  ――コンコンコン  朝ご飯を外で食べようと準備をしていたら扉をノックする音が聞こえた。こんな朝から誰だろう? 手を止めて扉の方へ向かった。 「はーい」  目の前に現れたのはエミール様だった。 「エミール様!?」 「おはよう」 「お……おはようございます」 「いい匂いがする。朝食前だったか?」 「えぇ。とりあえず中へどうぞ」 「失礼する」  びっくりした。まさかまたお会いするとは思わなかった。 「どうぞ、おかけくださいませ。散らかっててすみません」  テーブルの上に置きっぱなしにしていた本や杖を片付けていると「いや、全然。きれいだと思うが」と言って下さった。気を使って頂いて申し訳ない。 「今日はどうされたんですか?」 「また、あそこへ行きたくなった」 「そうでしたか。エミール様は、もう朝食を済まされていますよね?」 「コーヒーだけ。気にしないで食べてくれていい」 「コーヒーだけ!? それはいけません」 「そうか?」 「パワーが出ないじゃないですか!」 「いつもそうだが……」 「外で食べようと思っていたのですが、一緒にいかがですか?」 「外で?」 「いいお天気なので」 「それ、いいな」 「そんな大したものはご用意できないんですけどね」  パンにハムと野菜を挟んだだけのものと昨日残りの野菜スープなのだが……お口に合うのだろうか。不安になってきた。 「どうした?」 「あっ、いや。お口に合うのか不安になりまして」 「そんなに気を使う必要はない」 「ハムサンドと野菜スープなんです。スープは現地で温め直そうかと」 「いいじゃないか。うまそうだ」 「では、ご用意しますのでお待ち下さいませ」  キッチンの方へ向かってハムサンドを仕上げ、スープを入れた容器を持ったところで、飲み物を忘れていることに気づいた。今日は紅茶にしよう。 「おまたせ致しました!」 「準備してもらってすまないな」 「全然! 参りましょう」  彼とともに家を出て、またあの森へ向かって歩き始めた。彼がすっと僕の手から荷物を取った。 「持つ」 「いやいや、お持たせするわけにはまいりません!」  慌てて奪い返そうとしたけれど「いいから」と返されて恐縮しながらお礼を言った。    「あっ、今日は釣りしませんがよかったですかね?」 「うん、大丈夫だ。あまり長居できないから」 「そうでしたか」  きっとお仕事前なのだろう。僕もこのあとに収穫の仕事が控えているからよかった。 「また火を起こすのか?」 「そうですね」 「なら、枝を拾いながら行けばいいか」 「おぉ、本当ですね! 荷物を持って頂いてるので僕が拾いますね」 「俺もできるが」 「申し訳ないですし」 「気にすることはない」  そう言って荷物を持ったまま枝を集め始めた。全く嫌な顔をせずに積極的に動く彼に驚かされる。 「ありがとうございます」  僕も枝や落葉を拾いながら歩いた。こうしたらとても効率がいい。 「このあたりにしましょうか」 「そうだな」  拾い集めた枝や落葉をまとめて火をつけ、その上に折りたたみ式の台を置いた。 「この上に置いて温めるのか?」 「そうです。お鍋とかフライパンがあれば料理もできちゃうんですよ」   「ほぉ、すごいな。便利だ」 「持ってくるのが大変なので、あまりやらないんですけどね」  エミール様が興味津々な顔をして見入っている間に、布を敷いてハムサンドを取り出した。 「エミール様、こちらへお座りください」  敷いた布の上に座ってもらうように促して、入れ替わるように焚き火の前にしゃがみ、スープを器に入れた。 「熱いので、お気をつけくださいね」 「ありがとう」  自分の分を入れて、彼の隣に座り「いただきます」と言ってスープを口に含んだ。 「熱っ」  気を付けてと自分で言っておきながら熱くてびっくりしてしまった。今度はフーフーと息を吹きかけてから飲んだ。ハムサンドも一口。 「おいひぃ」  外で食べると美味しさが倍増する気がする。夢中で食べながら、そういえばお口に合っただろうかと思い隣を見るとこちらを見るエミール様と目があった。 「お口に合いましたか?」 「うん、とてもうまい。自然の中で食べるというのもいいな」 「美味しさ倍増する気がしますよね」 「そんな気がする。野菜もうまいな」 「実は自家製なんです」 「そういえば畑があったな」 「ありがたいことにすくすく育ってくれて」 「そうか。より美味しく感じるよ」 「ありがとうございます!」  お口に合ったようでよかった。野菜も気に入ってもらえて嬉しい。いい気分でまたがぶりと齧り付くと隣からふっという笑い声が聞こえた。 「どうしましたか?」 「いや、本当にうまそうに食べるなと思って」 「そうですかね?」 「うん、いい食べっぷりだ」 「食べるのが好きなので。何だか恥ずかしいですけどね」 「とてもいいと思う」 「どうも、ありがとうございます」  こんな風にガツガツと食べる人は周りにいないんだろうな。きっとみんなお淑やかに食べる方ばかりなんだ。そうした方がいいかもと思いつつ、そんな急には変えられないなと思い直して、またがぶりと齧りついた。
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