舞踏会の日

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舞踏会の日

 ここはとある王国の片隅にある小さな街。何の変哲も無い小さな一軒家に住む男がこの物語の主人公。 「あれ、もう茶葉がないな」  紅茶を飲もうと思って瓶を取り出すと残りわずかになっていた。ついでに他にもなくなりそうなものがないか戸棚の中を確認していく。ふむ、意外と多い。 「うーん、今日は街へ買い出しに行こうかな。薬草も買いたいしな」  近くの商店でも必要なものは買えるけれど、茶葉や薬草は中心部の街へ行ったほうが種類が多い。そうと決まれば、早速出発だ。肩がけバッグを手にとって家を出た。機関車の乗り場までのんびりと歩く。 「こんにちはー!」  前を歩いていた顔見知りのおばあさんに声をかけると「ルシアンちゃん、こんにちは」と返してくれた。散歩しているというおばあさんと途中まで一緒に歩いて別れた。駅舎まではあと少し。商店街を抜けると広場が見えてくる。その前に駅舎はある。 「こんにちはー」 「こんにちは。今日は買い物かい?」 「えぇ、そうなんです」  人の良さそうな笑みを浮かべる駅舎の男に行き先を告げて切符を発行してもらう。あまり人のいないこの街ではすぐに顔見知りになる。懐中時計を取り出し、時間を確認した。もうすぐ来るはずだ。珍しく僕の他に待っている人はいない。いつもなら誰かいるのに。暫く待つと煙を吐きながら機関車が乗り場へと滑り込んできた。いつ見てもこの立派な乗り物に心が浮き立つ。扉を開いて空いている席に腰を下ろすと、すぐに動き出した。移りゆく景色を眺めるのも楽しみのひとつだ。畑が広がる長閑な景色から徐々に建物が増えていく。次の駅で降りなければ。  久しぶりに降り立った街はいつもより人が少ないように感じる。あちこちで見かける馬車渋滞が今日はあまり起きていない。何かあるんだろうか。お目当ての薬草店に到着し中へ入ると、幾重にも混ざりあった薬草の独特の香りが鼻腔をくすぐった。 「いらっしゃいませ」  店主に必要なものを注文し、ふと気になったことを聞いてみた。 「今日は人が少ないですね」 「あぁ、今日は舞踏会があるからね。その準備をしているんじゃないかな」 「舞踏会?」 「ついに第2王子様の婚約者候補を決めるんだとか」 「ついに?」 「ずっと婚約を拒んでいたらしいからね」 「へぇ」  婚約って拒めるんだ。昔から決められた人がいるというイメージだったけど違うんだな。 「まぁ、庶民の俺達には関係のない話だ」 「そうですね」 「はい、おまたせ」  「ありがとうございます」  コインと引き換えに袋を受け取った。そうだな、僕には関係のない事だ。さて、あとは調味料と食材と……せっかくだし甘いものでも食べて帰ろうかな。必要なものを買い揃えて、最近流行りのカフェに足を運んだ。いつも行列ができていて断念する店だが、今日は違う。第二王子様々だな。頼んだフルーツタルトとハーブティーを優雅に嗜んで、家路についた。
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