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「やっぱり君は真面目だね」
「……みんなにも、そう言われます。真面目で堅過ぎだって」
先輩からは、そんな風に言われたくなかったなあ。そんなことを考えて落ち込む。
「いいんじゃない。真面目で」
「え…?」
「真面目で、堅いところが……いいんじゃない?」
「………」
「僕は、いいと思うよ」
先輩の頬が、少しだけ赤くなっている。
「えーっと……これでも、告ってるつもりなんだけど」
「………」
「あのさ、何とか言ってよ」
「……………」
先輩の言葉が、1分くらいの時間差で私の心の中に溶け込んだ。
「ふふっ」
「えー、そこで笑う?」
「先輩の告白も、結構真面目で堅いですよ」
「そうかなあ」
そして二人で笑いあった。
二人でお茶をする時、彼は決まってブラックコーヒーを頼んだ。
「コーヒーは断然ブラックだよ」
それが彼の口癖だ。
「苦くないですか?」
「慣れれば大丈夫だよ」
それまでミルクたっぷりのロイヤルミルクティーか、カフェラテしか頼んだことがなかった私は、先輩のマネをしてブラックコーヒーを飲むようになる。
だんだん慣れてくると、確かにミルクや砂糖に邪魔されない、コーヒー本来の味と香りを楽しむには、ブラックが一番だと思うようになった。
「君もコーヒー通になったね」
と言う彼の笑顔が、コーヒーよりも大好きだった。
大学生活は四年ある。三年ずつの中学や高校よりも長い学生生活は、入学するときには卒業なんて遠い未来に感じられたものだった。
でも四年間は、その後の長い人生の時間の中では、ほんの一瞬に過ぎない。
先輩と一緒に過ごした春も、夏も、秋も、冬も
先輩が卒業してからの春も、夏も、秋も、冬も…………
キャンパスの銀杏並木を風が通りすぎるように、さらさらと、さらさらと、時が過ぎていった。
そして
あの頃、十代の私が憧れた先輩は、もういない……
「コーヒーはブラックだよ」と言っていたあの人は、もういない……
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