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「今日ね、穴を見つけたよ」
一人でテレビを見ていると、帰ってきた美春がそう言った。
「穴?」
「そう、穴。しかも宙に浮かんでる穴」
美春は興奮気味で話しているが、僕は宙に浮かんでる穴、と言われてもピンと来なかった。
美春には、こういうところがある。小さい頃から、例えばUFOを見ただとか、例えば狼人間に会っただとか、明らかな嘘を僕に聞かせてくる。しかもふざけて言っている感じではなくて、真面目な顔で、本当にあったエピソードのように話し、僕をからかうのだった。
だから今回のも冗談で言っているのだろうとは思う。でも、てきとうにあしらうような返事をするとだいたい機嫌が悪くなり、それ以降しばらく黙ってしまうので、いつも少しの間だけその嘘の体験談に付き合ってやっていた。
「ふうん。どこで見つけたの?」
「学校から帰る途中にガソリンスタンドがあるでしょ? その裏」
「ガソリンスタンドの裏って森だよね?」
「そう、森の中をちょっと進んだところに穴があった」
「なんで森の中に入ったの?」
「昔、省吾とあの森で秘密基地を作って遊んでたでしょ? なんとなく思い出して、今はどうなってるだろうって思って行ってみたら、秘密基地の場所に穴があった」
僕と美春が森の中に秘密基地を作って遊んでいたのは、もう十年近く前になるのではないだろうか。今はお互い高校生になっているので、秘密基地で遊んだりなんかもちろんしていなくて、どうして美春が急にそのことを思い出したのかは謎だった。
「その穴は、大きいの?」
「一メートルくらい」
「直径?」
「ううん。半径」
美春はそう言うと、母親が作り置きしていたオムライスを電子レンジにいれた。中で回っているのを、美春はずっと眺めていた。二、三分ほどで温め終わったみたいで、美春はオムライスを取り出し、黙々と食べ始めた。僕は一時間ほど前に食べ終えている。
美春がオムライスを食べ終えると、
「ねえ、今から宙に浮かんでる穴、見に行かない?」
と、僕に言ってきた。
もう外は暗いし寒いので、正直言うと行きたくはなかった。ただ美春がどうしても行きたい様子だったので断れなかった。僕と美春は外に出た。
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