幸せだったよ。

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幸せだったよ。

父親を殺した。 「いぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃ!!」 奇声、としか言えない私の声。もう限界だったのだ。 今、死にたい。 一番気持ち良い今、死にたい。 刑務所に入ったり出てきたあとに社会復帰しようと足掻いたりなんてしたくなかった。私は今、人生で一番気持ち良いのだ。だから今、父親を殺した包丁で自分の腹をメッタ刺しにして死のう。 父の血と違って、私の血は黒かった。 安堵した。 私は父とは違う人間なのだと思えたから。 地獄に落ちていく。 亡者達の血に濡れた赤い手が私を掴もうと揺らめく。 「一緒に行ってあげる」 そっと、手を握られた。ふわふわとした感触。 黒い虹色の巨大な魚が、泳いで私を連れて行く。 天国には黒い水草が揺らめいていた。 そこで目が覚めた。 心臓がバクバクと脈打ち、目から涙が零れる。 「ゆ、夢・・・」 私は泣き止んだあと、自室を出てリビングに向かった。 父がテレビを見ながら酒を飲んでいる。 正夢にしよう。そう思ったのだ。 ありがとう、黒い虹色の魚。 君と一緒に行けなくても、私は幸せな人生を送ったと言えるよ。
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