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午前二時を回ると、コンビニの客足はいったん途絶えがちになる。明け方までの二時間ほどは、僕もあくびを噛み殺しながら睡魔と戦うのが常だった。
今夜も無事に終わって、普段通り早番の奴らと交代することになるはずだ。レジ前の商品を補充しながらぼんやり考えていた僕の耳に、来店を告げるチャイムが聞こえてきた。
「らっしゃいませー」
条件反射のように口だけで挨拶する。客がいればそれなりに対応しなければいけないから、眠気覚ましにもなり助かる部分もあるが、正直めんどくさいのが本音だった。早く帰ってくれないかな。
「おい」
低い声で突然呼ばれて、僕はぴりっと緊張した。相手は少しイライラしているようだ。
あ さっきの親子
小さな子どもを胸に抱えた男が立っていた。だけど、その出で立ちときたら。スキンヘッドに口髭をたくわえ、おまけにラウンド型のサングラス。薄墨のレンズの奥には、切れ長の瞳が光っており、首元に金のぶっといチェーンネックレスを光らせて、黒いタンクトップにグレーのハーフパンツだった。
日付が変わる頃に来たこの二人は、ポケット菓子とジュースを買っていった。こんな夜中に連れ歩くなんてと内心思ったが、もちろん口には出さなかった。
にしても カッコがもうヤバくねえか
よく見れば背中に彫られたモノの片鱗が、肩口から鮮やかな色を覗かせていた。薄ら笑いでドキドキしながらごくりと唾を飲む。なるべく刺激しないように僕は男に話しかけた。
「いらっしゃいませ。どうかなさいましたか」
「悪いけど、トイレ貸してくれ」
「あ、はあ。どうぞ、あちらです」
僕は手を挙げて店の奥を示した。
「こいつ、預かっててくんねえか。時間かかるからよ」
大……か?
腕の中で男の子はすやすやと眠っている。しかし、そう言われても大学生の僕に子どもの扱いなんてわかるわけがない。
「起きねえとは思うけど、床に置いとくわけにもいかねえだろ」
「はあ」
こんな時に限って店長は席を外している。
「でも僕、子ども触ったことないですし」
「こうやって抱いてろ。おら」
「え、ちょ……」
「ぐだぐだ言ってんじゃねえっ」
男は無理やり僕に子どもを預けてきた。まるで爆弾を手渡された処理班の気分だ。
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