6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
初めてのラブレター
もう、これしかない。告白して気持ちを伝え、彼に振り向いてもらう。そして二人で両親を説得するのだ。私だけでは両親に認めてもらうのは難しそうだけど、エドワードと一緒に訴えれば、納得してもらえるかもしれない。いえ、絶対納得させてみせる!
生まれて初めての告白をすることに決めた私は、さっそく綺麗な便箋に想いをしたためた。
告白しようと決意はしたけれど、面と向かって言うのはハードルが高いので、手紙で伝えることにしたのだ。
あんまり長々と愛の言葉を書くのは恥ずかしいから、なるべく短く、でもちゃんと本気だと伝わるように。
エドワードへ
驚かせてしまうかもしれないけど
前からずっとずっと好きでした。
エドを想うと胸が苦しくて食事も
喉を通りません。エドは私なんて
ろくに女として見てないだろうけど
運命の恋だと信じています。
アシュリーより
「よし、できたわ!」
渾身のラブレターを書き上げた私は、期待と不安が入り混じってドキドキと高鳴る胸を押さえながら、前もってエドワードを呼び出していた森へと向かった。
いつも待ち合わせ場所にしている大きな白樺の木の下で、エドワードは腕組みをして幹に寄りかかりながら待ってくれていた。
少し癖のある亜麻色の髪に、輝く緑柱石のような瞳。真っ直ぐに通った鼻筋と、薄く形の良い唇が凛々しく美しい横顔を形作っている。剣術で鍛えた引き締まった体も男らしさが感じられて、胸の高鳴りが一層激しくなるのを感じた。
だめだめ、落ち着け私の心臓! ちゃんと手紙を渡さないと!
私は呼吸を整えてエドワードに声を掛けた。
「エド、お待たせ! 来てくれてありがとう!」
「アシュリー。俺も今来たところだから。それで、用事って?」
エドワードの爽やかな笑顔を目の前にして、さらに緊張が高まってきた。これはいけない。決心が鈍る前に、一刻も早く手紙を渡さなくては。
「あのっ、エドにこれを読んでほしいの……!」
私は俯き加減で両手を掲げて、エドワードに手紙を差し出した。
「俺に手紙……?」
エドワードは訝しむような様子を見せながらも、手紙を受け取り、そのまま読み始めた。
だめだ、あまりにも緊張して口から心臓が出てきそうだ。きっとまだ十秒しか経っていないのに、五分くらい経過したように感じる。エドワードはどんな反応をするだろうか。彼も私を好きだと言ってくれるだろうか。
恐る恐る顔を上げると、エドワードは片手で口許を覆いながら、真剣な面持ちで手紙を見つめていた。そして、じっくりと何度も何度も文面を読み返した後、静かに目を伏せて呟いた。
「……まさか、アシュリーが俺のことをこんな風に思っていたとは……」
「あの、急にごめんね! いきなりこんな手紙を渡しちゃって驚いたかもしれないけど、私はエドのこと──」
恥ずかしくなって思わず早口で捲し立ててしまったが、続くエドワードの言葉に私は耳を疑った。
「アシュリーが俺のことを呪いたいだなんて……」
「…………は?」
あの手紙を読んで、どうして呪いだなんて言葉が出てくるのだろうか。
え? もしかして手紙がすり替わってたとか?
「ちょっと見せて!」
エドワードから手紙を引ったくって確かめてみたけれど、やっぱり私が書いたラブレターに違いなかった。
「何よ、呪いたいだなんて書いてないじゃない!」
憤慨する私にエドワードが目を逸らしながら言った。
「各行の最初の音を上から順に読んでみて」
「はぁ? 最初の音?」
私は訳が分からないながらも、とりあえず言われた通りに読んでみる。
おどろかせてしまう……
まえからずっと……
エドをおもうと……
のどをとおりません……
ろくにおんなとして……
うんめいのこい……
「お、ま、え、の、ろ、う……。お前、呪う……?」
「ほら、ちゃんと書いてあるだろ?」
エドワードはなぜか「隠しメッセージを見つけてやったぜ」みたいな顔をしているが、いやいや、そんな物騒なメッセージを仕込んだりしないから!
というか、わざわざ縦に読んだりしないで、普通に読んでほしいんですけど!
あまりにも斜め上の反応に呆気に取られていると、エドワードは私の手から手紙を抜き取って、大事そうにポケットにしまった。
「これは証拠として、俺が保管しておくから」
そう言うと、エドワードは心なしか機嫌よさそうに屋敷へと帰ってしまった。
一人残され、森の中でぽつねんと佇む私。どうやら、人生初の告白は失敗……というか、告白に至ることすらできなかったようだ。
「くっ、こんなことで諦めないんだから……! エド、見てなさいよ!」
不完全燃焼に終わって、かえってやる気が湧いてきた私は、次こそは気持ちを伝えてみせるとリベンジに燃えるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!