初めてのラブレター

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初めてのラブレター

 もう、これしかない。告白して気持ちを伝え、彼に振り向いてもらう。そして二人で両親を説得するのだ。私だけでは両親に認めてもらうのは難しそうだけど、エドワードと一緒に訴えれば、納得してもらえるかもしれない。いえ、絶対納得させてみせる!  生まれて初めての告白をすることに決めた私は、さっそく綺麗な便箋に想いをしたためた。  告白しようと決意はしたけれど、面と向かって言うのはハードルが高いので、手紙で伝えることにしたのだ。  あんまり長々と愛の言葉を書くのは恥ずかしいから、なるべく短く、でもちゃんと本気だと伝わるように。  エドワードへ  驚かせてしまうかもしれないけど  前からずっとずっと好きでした。  エドを想うと胸が苦しくて食事も  喉を通りません。エドは私なんて  ろくに女として見てないだろうけど  運命の恋だと信じています。  アシュリーより 「よし、できたわ!」  渾身のラブレターを書き上げた私は、期待と不安が入り混じってドキドキと高鳴る胸を押さえながら、前もってエドワードを呼び出していた森へと向かった。  いつも待ち合わせ場所にしている大きな白樺の木の下で、エドワードは腕組みをして幹に寄りかかりながら待ってくれていた。  少し癖のある亜麻色の髪に、輝く緑柱石のような瞳。真っ直ぐに通った鼻筋と、薄く形の良い唇が凛々しく美しい横顔を形作っている。剣術で鍛えた引き締まった体も男らしさが感じられて、胸の高鳴りが一層激しくなるのを感じた。  だめだめ、落ち着け私の心臓! ちゃんと手紙を渡さないと!  私は呼吸を整えてエドワードに声を掛けた。 「エド、お待たせ! 来てくれてありがとう!」 「アシュリー。俺も今来たところだから。それで、用事って?」  エドワードの爽やかな笑顔を目の前にして、さらに緊張が高まってきた。これはいけない。決心が鈍る前に、一刻も早く手紙を渡さなくては。 「あのっ、エドにこれを読んでほしいの……!」  私は俯き加減で両手を掲げて、エドワードに手紙を差し出した。 「俺に手紙……?」  エドワードは訝しむような様子を見せながらも、手紙を受け取り、そのまま読み始めた。  だめだ、あまりにも緊張して口から心臓が出てきそうだ。きっとまだ十秒しか経っていないのに、五分くらい経過したように感じる。エドワードはどんな反応をするだろうか。彼も私を好きだと言ってくれるだろうか。  恐る恐る顔を上げると、エドワードは片手で口許を覆いながら、真剣な面持ちで手紙を見つめていた。そして、じっくりと何度も何度も文面を読み返した後、静かに目を伏せて呟いた。 「……まさか、アシュリーが俺のことをこんな風に思っていたとは……」 「あの、急にごめんね! いきなりこんな手紙を渡しちゃって驚いたかもしれないけど、私はエドのこと──」  恥ずかしくなって思わず早口で捲し立ててしまったが、続くエドワードの言葉に私は耳を疑った。 「アシュリーが俺のことを呪いたいだなんて……」 「…………は?」  あの手紙を読んで、どうして呪いだなんて言葉が出てくるのだろうか。  え? もしかして手紙がすり替わってたとか? 「ちょっと見せて!」  エドワードから手紙を引ったくって確かめてみたけれど、やっぱり私が書いたラブレターに違いなかった。 「何よ、呪いたいだなんて書いてないじゃない!」  憤慨する私にエドワードが目を逸らしながら言った。 「各行の最初の音を上から順に読んでみて」 「はぁ? 最初の音?」  私は訳が分からないながらも、とりあえず言われた通りに読んでみる。  おどろかせてしまう……  まえからずっと……  エドをおもうと……  のどをとおりません……  ろくにおんなとして……  うんめいのこい…… 「お、ま、え、の、ろ、う……。お前、呪う……?」 「ほら、ちゃんと書いてあるだろ?」  エドワードはなぜか「隠しメッセージを見つけてやったぜ」みたいな顔をしているが、いやいや、そんな物騒なメッセージを仕込んだりしないから!  というか、わざわざ縦に読んだりしないで、普通に読んでほしいんですけど!  あまりにも斜め上の反応に呆気に取られていると、エドワードは私の手から手紙を抜き取って、大事そうにポケットにしまった。 「これは証拠として、俺が保管しておくから」  そう言うと、エドワードは心なしか機嫌よさそうに屋敷へと帰ってしまった。  一人残され、森の中でぽつねんと佇む私。どうやら、人生初の告白は失敗……というか、告白に至ることすらできなかったようだ。 「くっ、こんなことで諦めないんだから……! エド、見てなさいよ!」  不完全燃焼に終わって、かえってやる気が湧いてきた私は、次こそは気持ちを伝えてみせるとリベンジに燃えるのだった。
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