伝わらない告白

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伝わらない告白

「ふっふっふ、これなら私の気持ちも伝わるはずだわ!」  翌週、二通目のラブレターを完成させた私は、完璧な文面に顔がにやけてしまうのを必死に抑えながら、エドワードとの待ち合わせ場所に急いだ。  この手紙なら、今度こそ確実に私の恋心を伝えられるはず! 「エド、久しぶり! これ読んで!」  またも先に到着していたエドワードに駆け寄ると、挨拶もそこそこに腰に片手を当て、ビシッと手紙を差し出した。  手紙を受け取ったエドワードは、内容に目を通すと、今度は額に拳を当てながら何やら苦しそうに瞳を閉じて天を仰いだ。 「ねえ、私の気持ち、分かってくれた?」 「…………アシュリー、一日だけ待ってくれるか? ちょっと準備が必要だから」  何だろう。返事をするのに心の準備が必要ということだろうか。それなら一日くらい待つのもやぶさかではないし、週に二回も会えるなんて楽しみだ。 「いいわよ。じゃあ明日も待ち合わせね!」 「ああ、また明日な」  よかった! 今度こそ告白できたわね!  私はホッと安堵しながら、どうにも悩ましげな表情で見送ってくれるエドワードに手を振って、足取り軽く家路へとついた。  そして翌日。お気に入りのリボンで髪を結って、待ち合わせ場所に出かけた。  いい返事が聞けるように、少しでも可愛くしていかないと。  逸る気持ちに合わせるかのように自然と小走りになって、いつもの白樺の木へと向かうと、今日もエドワードは先に到着していた。  エドワードは待ち合わせをすると毎回私よりも先に来ているのだ。今日こそは私が先に待っていようと思って早く屋敷を出たのに、ちょっと悔しい。  それにしても、今日のエドワードは紙袋を抱えたりして、一体どうしたというのだろう? 「エド、お待たせ! その紙袋はどうしたの?」 「これはアシュリーのご所望の品々だよ」  そう言って、エドワードは袋から大根やら胡瓜(きゅうり)やらを取り出した。 「え? 私、こんなのお願いした覚えなんてないけど……」 「昨日、手紙で頼んできただろう」  はい? 昨日渡した手紙はラブレターのはずでは……。  またも訳が分からず首を傾げていると、エドワードが昨日渡したラブレターを見せてきたので、確認してみる。  エッグタルト  ドーナツ  だいこん  いんげん  すもも  きゅうり  ほら、今度はちゃんと縦読みで「エドだいすき」って分かりやすく書いてるじゃない──って、しまったぁぁ!! 縦読みのことばかり考えていて気づかなかったけど、よくよく見たらこれじゃただのお買い物メモじゃない! 「エド、違うの! これは縦読みしてほしくて──」 「じゃあ、品物は渡したから俺は行くよ。このメモは貰っておくからな」  エドワードはそう言って、またもラブレターならぬお買い物メモを丁寧に折りたたんで胸ポケットにしまい、颯爽と帰っていった。 「また伝わらなかった……。というか、今のも縦読みしなさいよ!」  私は紙袋に入っていたドーナツを頬張りながら、次なる作戦を練るのだった。 ◇◇◇  そしてまた次の週。  今度は手紙はやめにして、口頭で伝えることにした。これなら今度こそ何の誤解もなく気持ちを伝えられるはずだ。  いつもの場所にエドワードを呼び出し、今までで最大級の緊張を抱えながら向かうと、そこには白樺の木の幹に腕組みをして寄りかかり、うたた寝をしているエドワードがいた。 「まあ、こんなところで器用ね」  私は少し感心しながら、そっとエドワードの正面に立ってみた。  長い睫毛が伏せられて影を落とし、静かに寝息を立てている様は、どこか幼少期の面影が感じられて懐かしさと愛おしさが込み上げてくる。  せっかくのチャンスなのでじっくりと寝顔を堪能していると、刺すような視線で気づかれてしまったのか、エドワードが目を覚ました。パチパチと瞬きをして、私に真っ直ぐな眼差しを向けてくる。  今こそ、告白する時ね……!  私はお腹の前で両手を組み合わせると、エドワードを見つめ、大きく息を吸って話しかけた。 「エド、私ね、ずっと前からあなたのことが好きなの。大好き。結婚するならエドじゃなきゃ嫌。私の気持ち、受け取ってくれる……?」  心臓がバクバクしすぎて倒れるかと思ったけれど、なんとか最後まで言い切った。  面と向かって口頭でここまではっきり言えば、今度こそ絶対確実に伝わっているはず……!  そう信じて返事を待っていると、エドワードが自身の耳元に手を持っていき、キュポンッという音が聞こえたかと思うと、エドワードの両指には小さなコルク栓がつままれていた。 「……耳栓したまま眠ってしまった。アシュリー、起こしてくれてありがとう」  エドワードが軽く伸びをしながら言う。  え? は? 耳栓?  まさか、私の一世一代の告白は聞き逃されてしまったってこと!?  なんたる不覚……!  あまりの展開に空いた口が塞がらないでいると、エドワードは申し訳なさそうな表情で片手を上げた。 「悪い、剣術の稽古があるからもう行かないと」 「え、じゃあまた来週……」 「ごめん、来週は大会直前で稽古に集中したいから。大会の日にまた会おう。絶対優勝するから見ててほしい」  そう言い残して、エドワードは走って帰ってしまった。  またもや告白が伝わらずに終わる私。あれ、もうこれ私が呪われてるんじゃ……?  どうしてこんなにも上手くいかないのだろうか……。  でも、ここで挫けるわけにはいかない。十年にもわたる私の恋心は、こんなことで折れるようなヤワな想いではないのだ。  二度あることは三度ある。でも、四回目なら大丈夫かもしれない。 「よし、次こそは絶対ぜったい告白成功させてみせるわ!」  私は固い決意を胸に、それから毎日イメージトレーニングを重ねるのだった。
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