剣術大会

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剣術大会

 そして、あっという間に剣術大会当日。  剣術大会は学園で毎年開催される伝統行事だ。  私も、エドワードを応援するために会場となる鍛錬場へ来てみれば、すでに学生や父兄など大勢の観客で賑わっていた。身内に手を振って応援する人や、誰が優勝するかで賭けている人など、みな楽しそうだ。 「今年は強者揃いだから予想が難しいな」 「でもやっぱり優勝は、騎士団長のご子息のアレックス様じゃないか?」 「私はエドワード様を応援してるのよね。最近ちょっと素敵じゃない?」 「わかる〜! あんなに凛々しいのに、たまに物憂げな表情をみせるのがたまらないわよね!」  あら、聞き捨てならないわね! エドワードは最近だけじゃなくてずっと格好いいし、ちょっとじゃなくて、すっごく素敵なんだから!  ……観客のお喋りが耳に入ってきて、思わず腹を立てた私だったが、他のご令嬢がエドワードを素敵だと言っているのを目の当たりにして、少し動揺してしまった。  エドワードのことを話題にしていたあの子たちは、確か男爵家の令嬢たちでエドワードとは家格も同じだしライバルになったら手強そうだ。  やっぱり早く告白しないとと気が焦るが、試合前のエドワードの心を乱したくはない。あんなに優勝したいと頑張っていたのだから、今は試合に集中して、実力で優勝をもぎ取ってほしかった。 「今日は告白のことは忘れて、エドの応援に徹しましょう」  近くの空いていた席に腰掛けると、まもなく開会式が始まった。出場者代表のアレックス様が正々堂々戦い抜くことを誓うと、会場は大きな拍手に包まれ、やがて出場者たちが退場していく。  その中にエドワードの姿を見つけ、頑張ってと祈るような気持ちで見つめると、エドワードもこちらを見て微笑んでくれたような気がした。こんなに大勢の中から私を見つけてくれるなんて無理に決まっているから、私の願望が見せた錯覚だろうけど。  それからすぐに第一試合が開始された。大本命のアレックス様と、今年の新入生だという大柄な男の子の対戦で、五分ほど打ち合った末に予想通りアレックス様が勝利をおさめた。  そして、第二試合、第三試合と次々に試合が行われ、エドワードも危なげなく勝ち進んだ。  試合を重ねるにつれ、実力者同士の闘いになるので見応えがあり、歓声もますます大きくなっていく。いよいよ決勝戦となった時には、観客たちの盛り上がりは最高潮に達していた。 「アレックスとエドワードの決戦か! これは見ものだな!」 「どっちが勝つのかしら?」  そう、決勝戦はアレックス様対エドワード。闘技場に入ってきた二人は中央で向かい合って構え、開始の合図を待っていた。  両者ともこれまでの闘いはものの数分で相手を下してきたので、お互いに体力は十分。どちらも優勝を目前にして気合が入っている。固唾を呑んで見守る中、ついに試合開始を告げる声が響いた。 「始めッ!」  審判の声と共にアレックス様とエドワードが間合いを詰めて斬りかかる。試合用に刃を潰した剣のようだが、ぶつかり合う剣戟の音はこれまでのどの試合よりも激しく、二人の実力の高さを物語っていた。  私は剣術のことはよく分からないけれど、アレックス様は筋骨隆々とした体躯を生かした重い攻撃が持ち味のようだ。対するエドワードは、素早くしなやかな動きで相手の剣をかわして隙を作り、攻撃に転じている。  近づいたり離れたりしながら打ち合うこと数分。どちらが優位なのか皆目見当もつかないが、エドワードの表情を見るに、まだまだ余裕がありそうだ。 「……エド、勝って!」  そう呟いた瞬間、広く間合いを取っていたエドワードがアレックス様に向かって駆けていった。アレックス様は剣を正面に構えて防御の姿勢を取り、エドワードが振りかぶって斬りかかる──と思いきや、急に太刀筋を変えて斜め下からアレックス様の剣を斬り上げて弾き飛ばした。  剣はヒュンッと音を立てながらアレックス様の手を離れ、回転しながら飛んでいく。そしてガシャンと地面に落ちた時、エドワードの剣がアレックス様の胸元に突きつけられていた。 「……それまで! 優勝者は、エドワード・バルト!」  審判が優勝者の名を告げると、会場中に大歓声と拍手が沸き起こった。  エドワードは手を挙げて観客に応え、アレックス様と健闘を称え合っている。 「ううっ、エド、よかったねぇ……格好よかったよぅ……」  私は感動で止まらない涙をハンカチで押さえ、鼻をグスグス鳴らしながら、エドワードの勇姿を見守ったのだった。
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