伝わった告白

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伝わった告白

 剣術大会がつつがなく終了した後、私はいつもの待ち合わせ場所の白樺の木へと向かっていた。閉会式の後で、エドワードの友人のポール様から、エドワードからだという手紙を渡されたのだ。  ──今日、いつもの場所に来てほしい  そう一言だけ書いてあった。  泣きすぎてショボショボになった顔で会うのは恥ずかしかったけれど、せっかくの優勝を直接お祝いしたかったので、できるだけお化粧を整えてから行くことにした。  待ち合わせ場所に着くと、案の定、エドワードが待っていた。 「待たせてごめんね。お化粧直してたら遅くなっちゃった」  そう言って駆け寄ると、エドワードは喜びの表情を浮かべながらも、なぜかそこはかとない緊張感を漂わせている。私は不思議に思いながらも笑顔でお祝いの言葉をかけた。 「エド、優勝おめでとう!」 「好きだ」  え? 好きだ? やだ、まさか私、無意識のうちに告白しちゃってた!?  焦って口に手を当てると、また声が聞こえてきた。 「ずっと好きだった、アシュリー」  優しい、それでいて切望するような響きの声は、エドワードのものだった。 「……え? 好き? エドワードが、私を?」  すっかり自分が告白することしか頭になかった私は、混乱してうまく言葉が出てこない。  すると、エドワードが申し訳なさそうな顔で謝り始めた。 「ごめん、つい気が急いてしまった。まずは、アシュリーに謝らないと。……最近、アシュリーが俺に気持ちを伝えてくれようとしていたことは分かっていたのに、俺はそれを避けてた。せっかくの告白をなかったことにしてしまって本当にすまなかった」  突然の告白にもビックリしたけど、こっちの謝罪にも驚いた。まさか、私が告白しようとしていたことに気付いていたとは……。 「アシュリーも俺を想ってくれていると知って、可愛い手紙までもらって本当に嬉しかった。俺もアシュリーが好きだってすぐにでも伝えたかったけど、アシュリーの両親と約束をしていたから我慢するしかなかったんだ」 「約束? 私の両親と?」 「ああ、アシュリーに想いを告げて求婚することを許してほしいとお願いしたら、剣術大会で優勝したら許す。覚悟を見せろと言われた。だから、それまでアシュリーの告白を受け入れる訳にはいかなかったし、俺も男として自分からアシュリーに告白したかった」 「ごめんなさい、お父様とお母様がそんなことを言っていたなんて……」 「いいんだ。俺も、アシュリーへの気持ちが本物だって証明したかった。それに、優勝が決まった時、アシュリーのお父君が俺に向かって泣きながら両腕で丸を作っていたから、最初から認めてくれるつもりだったんだと思う」  お父様、まさか会場でそんなことをしていたなんて……。恥ずかしいやら嬉しいやらで、なんだか顔が熱くなってくる。 「アシュリー、子供の頃からずっと君を想っていた。明るくてお転婆なアシュリーが大好きだ。俺も、君こそが運命の人だと思っている。俺と結婚してくれないか?」  どうしよう。嬉しすぎて涙があふれてしまう。剣術大会での優勝を目指していたのも、私の告白に気づかない振りをしていたのも、私を想ってくれていたからだったなんて。 「もちろん、いいに決まってるわ!」  泣き笑いの笑顔で返事をすれば、エドワードはその大きな体で私を抱きしめてくれた。 「ありがとう、アシュリー。俺は爵位を継ぐこともないし、苦労をかけるかもしれないが、それでも付いてきてくれるか?」 「大丈夫。私はきっと、ゆくゆくは騎士団長夫人になるはずよ」  自信満々に答えれば、エドワードは嬉しそうに笑った。 「そうか。では、俺の忠誠は未来の主君に、心はアシュリーに捧げよう」  抱き合って幸せそうに笑う私たちは、きっともうただの幼馴染ではなく、愛し合う恋人同士に見えるはず。   「私も、エドだけに愛を捧げるわ」  心のままにそう囁くと、さらに強く抱きしめられた。  恋とは、空回ったり、悩んだり、ままならないこともあるけれど、くすぐったくて温かくて、なんて幸せなんだろう。  私は初恋が叶った幸運に感謝しながら、最愛の人を抱きしめる腕にぎゅっと力を込めたのだった。
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