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六話:妹奪還②
「できたばかりの新作だが、これを渡しておこう」
ラスティはエクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェの分の魔装ゴーレムギアを渡す。
「これはゴーレムのコアを利用して全身鎧を生成する。高い機動性と防御力、魔力伝導率を誇り、高い攻撃力を繰り出せる」
「そんなものが!?」
「流石です、主様」
「どうやって使うのですか?」
「ゴーレムギアを持って、言う。セットアップ。もしくは変身」
そう言うと、ラスティの姿が白と金のバトルスーツを纏った姿になる。他の面々もラスティに倣って、変身コードを言う。
エクシアは白と青。
デュナメスは白と緑。
キュリオスは白とオレンジ。
ヴァーチェは白と紫。
「ヴァーチェは戦闘向きじゃない。ここで待機だ。戦術オペレーターとして支援をしてくれ」
「畏まりました」
「よし。行くとしよう」
地下へと続く坑道のトンネルを下る。延々と続く段を一歩一歩踏みしめる。入口付近は日の光が差し込んでいたが、次第に闇が深まっていく。
漆黒に向かって突き進んでいるかのようだ。シェルターとしての役割も果たすように設計されているこようで、地表から遠く離れた場所にある。そのため内部の状況は外よりも格段に良い。
下り終えてトロッコが動かすためのホームに出る。もちろん照明などついていない。完全な暗闇がそこにあった。
暗視モードを起動してはいるが視界がほとんど利かない。データリンクでお互いの位置を把握しておかなければすぐに見失ってしまうだろう。こんな状況で敵に待ち伏せを食らったら終わりだ。
暗闇からデュナメスの声がする。
「暗いな……フラッシュライトをつけるべきか?」
「だめよ。トンネルの先で待ち伏せられていたら明かりで位置がばれるわ。このまま行きましょう。接近戦にならないこと祈るわ。聴覚を研ぎ澄ますしかない」
エクシアはそう言ってトロッコのホームから線路に飛び降りた。靴底が地面に当たってトンネルに音が響き渡った。全員分の足音がトンネルにこだまする。この調子ではライトをつけていなくても先にばれるのはこちらだ。足音を極力抑えようとしても静寂に支配されたトンネルでは少しの音も目立ってしまう。コツコツと靴を打ち鳴らしながらトンネルを往く。
まとめてやられることを避けるためお互いに少し距離をとり、ひし形の陣形で進む。先頭はラスティで殿がエクシアだ。
(あまり警戒する必要はないけれど、必要以上に気にしてしまうわね)
エクシアはあまり警戒する必要もないのだが頻繁に振り向いて後ろを見た。闇の中にいると存在しないものまで恐れてしまう。誰かに見られているような、漠然とした不安に取り憑かれる。『ロイヤルダークソサエティ』のみならず何か別のものに襲われるのではないかとまで思う。
突然足元で何かうごめいた。拳より大きな何かが私の足にぶつかって、動いた。生温かい何かがエクシアの靴の上を這い上がった。
「ひっ……!」
思わず上ずった声を上げて剣先を足元に向けた。暗闇の中に何か光る点が浮かんでいるように見えた。だが、よく見るとくすんだ体色をしたネズミだった。すぐにちょろちょろとエクシアの足から離れ、闇の中へ消えていった。
「ふぅ」
エクシアは深くため息を吐き出した。恐ろしい化け物か何かだと思った。この地下も人間が放棄しただけで他の生き物は残っているのだ。怖がり過ぎだ、自分で自分をたしなめる。
「どうかしたか、エクシア」
「何でもないわ、何でも」
ラスティに心配されたが何も言わなかった。殿で助かった。今のを見られていたらまたからかわれるネタが増える。
懸念に反して『ロイヤルダークソサエティ』には遭遇しなかった。事前に言った通り、複雑に絡み合った路線をすべて警戒しておくのは無理だ。
運河を越えた。ここを上がれば包囲網の中だ。
「警戒して行くぞ」
日の光だ。周囲を警戒しながらトンネルを出る。辺りは異様に静かで敵影は見えない。道路に面したこの場所は見晴らしが良すぎる。奇襲されかねない。道路は南東に伸び、北には荒れ果てた公園が、後背には団地があった。
「団地に隠れながら進みましょう。敵の拠点の付近まで行って情報を収集し、奇襲を仕掛ける。それが最善だと思うわ」
「エクシアに同意見だ。迅速に捕まっている者たちを脱出させる必要がある。奇襲は一度しか使えないが、タイミングと場所さえ間違えなければ強い武器になる」
再び陣形を組み、団地の狭い道路を進む。放棄されてから誰も足を踏み入れていなかったのか地面を蹴り上げると砂塵が舞う。埃臭さにむせそうになるが、黙って東を目指した。
今、ラスティ達は敵地にいる。張り詰めたような緊張に肌が焼けるようだ。
爆音がした。断続的に街に響き渡る。ラスティが右の拳を頭上に挙げて、エクシア達はその場にしゃがみ込んだ。
ラスティ達が捕捉されたわけではないようだが、かなり近い距離から聞こえた。
「助けに向かう」
ラスティは焦ったように言うと返事も待たずに駆け出した。エクシア達も追いすがって団地の中のアパートに飛び込んだ。道路を見渡せる一室に入り込み、慎重に外の様子を見た。
黒いジャケットを羽織った人間が道の向かいを走っている。次の瞬間、閃光がほとばしった。その人間の右腕が撃ち抜かれて地面に落ちる。
バランスを失った人間はその場に倒れた。後ろからゆっくりと『ロイヤルダークソサエティ』の集団が姿を現す。見覚えのない黒い騎士が先陣を切っていた。右腕がアンバランスに肥大化しており、その手で巨大な大剣を逆手に構えている。
「『ロイヤルダークソサエティ』の幹部、エクスキューショナーか」
すぐに照準を頭に合わせた。だが、攻撃するべきではない。ここで彼女を倒したとしても戦闘音を聞きつけて『ロイヤルダークソサエティ』の部隊が殺到してくる。退路を失って帰還できなくなる。
ラスティ達は横目でエクシアの様子を見た。武器を構えているが攻撃をためらっている。ここは抑えなければならない。
エクスキューショーナーは人間のもとに近づいていく。人間は這いつくばっていたが、どうにか身体を起こしてエクスキューショナーに向き合った。
「メーテルリンク、哀れな少女め。お前が逃がしたやつらはみんな捕まえた。私が生きたまま切り刻んでやった。みんな泣き叫んでいたぞ。もうお前には何もない。命乞いをしろ」
エクスキューショナーはメーテルリンクを嘲笑った。獲物を追い詰めて油断した様子だ。
「分かりました……あなたに従います。だから、お願いです。殺さないで……」
怯えた表情のメーテルリンクは媚びた声を出して懐に手をやった。瞬きほどの間もなく、メーテルリンクはエクスキューショナーのもとに飛び込んでいた。ばねのように飛び上がった彼女の手元にはナイフがあった。刃が、騎士甲冑を貫きエクスキューショナーの腹部に深々と突き刺さる。
「死ね……! 誰がペットなんかになるもんですか!」
闘志を剥きだしにしたメーテルリンクがナイフを捻る。エクスキューショナーの顔からニヤつきが一瞬で去り、怒りに歪む。膝でメーテルリンクの腹部を蹴り上げ、そのまま突き飛ばした。
「このウジ虫が! ダイモス細胞で死ぬ運命の癖によくも歯向かったな!!」
エクスキューショーナーの左手が火を噴き、メーテルリンクの身体をめちゃくちゃに貫いた。胸が、腕が、脚が、引き裂かれていく。
「止む得ない、私が一人で助けに行く! 君たちは潜伏して他の捕虜を奪還しろッ!」
ラスティは魔力ブースターを吹かして、加速してエクスキューショナーを蹴り飛ばす。
「魔力変形・雷槍穿ち」
ラスティの手から生まれた雷の槍が放たれて、『ロイヤルダークソサエティ』の構成員達を貫いてく。
「お兄様?」
「助けに来たぞ、メーテルリンク」
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