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「祈れと言ったではないか」
武者は低い声で呟いた。
「祈れ。祈れ。祈れ……」
「分かりました、祈ります! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
いったい何を祈ればいいんだ。分からずひたすら「ごめんなさい」を連呼した。
「プッ……アハハハハ!」
いきなり武者が笑い始めた。この声は、お祖母ちゃん?
「何を謝ってるんだい? 何か悪い事したのかい? お前はいい子だよ」
お祖母ちゃんは兜を脱いだ。いつもの穏やかな笑顔だった。
「どうしてここに?」
「この土蔵には秘密の抜け穴があるのよ」
「抜け穴?」
「ほら、ここ」
お祖母ちゃんが茶箱をずらすと下へと続く穴があった。中は階段になっていた。お祖母ちゃんが先に入り僕はそれに続いた。ほんのちょっとの暗闇を抜けるとそこは土蔵の裏だった。サワサワと笹の葉の擦れる音がした。
「お腹空いたわね。帰ろうか、清」
「うん、え?」
清と呼んだ。正気に戻っている。実家に戻ったからだろうか。
帰り道、お祖母ちゃんは後部座席で気持ち良さそうに眠っていた。穏やかな顔だ。お祖母ちゃんが正気に戻れるのなら、たまにはお祖母ちゃんと一緒に山の家に行くのもいいかもしれない。次はお祖母ちゃんのガイドなしでも来られそうだ。
〈終〉
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