姨捨山にて

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「お祖母……母さん、行こう」  お祖母ちゃんの手を握り歩き始めた時だった。 「歩いてなんか行けるわけないじゃない。家は山の中なんだから車じゃなきゃダメよ」  車? 僕は車庫を見た。若葉マークの貼ってある中古の我が愛車が停まってる。 「裕次郎は運転が上手だから安心よ」  そういうとお祖母ちゃんは車に乗り込もうとドアノブに手を掛けた。 「鍵開いてないわよ。早く開けて」 「え、うん」  慌てて家に戻り車の鍵と財布を手に持った。財布の中には取れたてホヤホヤの免許証が入っている。 「車で行くの?」 「お祖母ちゃん車乗る気満々なんだ」 「免許取り立てなんだから気をつけてよ」 「近所を回って帰ってくるよ」  実際右折は苦手だ。だから左折左折でグルグル回る計画だ。いつもお祖母ちゃんは車に乗ってしばらくすると眠ってしまう。振動が心地良いのだろう。今日もそれで行こう。 「お待たせ。さあ乗って」  お祖母ちゃんを後部座席に乗せシートベルトをはめてあげた。窮屈なのか眉間にシワを寄せていた。 「羽交い締めされてるみたい」 「今は全席シートベルト着用が義務なんだよ。しないと警察に捕まっちゃう」 「昔はこんな物しなくても良かったのにねえ」  ミラーにお祖母ちゃんの不満そうな顔が見えた。でも外し方は分からないようだ。 「じゃあ出発するよ」  道に出る時は一時停止、左右をしっかり確認し左折のウインカーを出す。車は来ていない、歩行者も自転車もいない。今だ! 僕は一気にアクセルを踏んだ。 「ヒャー!」 「え!?」  お祖母ちゃんが奇声を発したので慌ててブレーキを踏んだ。
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