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「今工事してて遠回りしなきゃいけないんだよ」
「あらそうなの? また崩れたのかしら」
さらりと怖い事をいう。そんな崩れるような道なんて走りたくない。何とか誤魔化して家に帰ろう。僕は強引に左折した。
「そうねえ、こっちからだと次の信号を右かしら」
「いや、まだ工事区間だからまだ先だよ。あとは僕に任せておいて」
「そう。じゃあお願いね」
そういうとお祖母ちゃんはゆったりとシートに寄りかかった。上手く誤魔化せたようだ。
「あ!」
しばらく走っていると、本当に工事をしていた。直進不可で右折をして迂回しろと警備員が旗を降っていた。僕は仕方なく右折をした。しかし既にここは僕の知らない道。何処かでUターンしなければ戻れなくなってしまう。
しかし僕はUターンなどという高等な技は持ち合わせていない。そもそも道は狭く切り返しすらできそうにない。仕方がないのでしばらく走った。するとやっと迂回路と書かれた看板があった。ここを左折すればいいらしい。早速ウインカーを出しミラーにて後方を確認する。大丈夫、安全に曲がれそうだ。僕は左にハンドルを切った。
「あら本当。ちゃんと来れたわね」
「え?」
ミラーで後部座席を見ると、お祖母ちゃんは窓を開けて心地よさそうに風を受け、外を眺めていた。
「踏切を通らないで行ける道よね。良く覚えてたわね」
覚えてたも何も、仕方なく来た道だ。
「こっちは地元の人しか通らない道なのよ。向こうの道よりも坂が多いけど近道なの。さすが裕次郎、楽な道より険しい道を選ぶなんて、タクシーの運転手やってるだけあるわね」
繋がっているのかいないのか。お祖母ちゃんの取り扱い説明書があったら読んでみたい。
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