姨捨山にて

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「でも、車ならギアがあるんじゃないの?」  お祖母ちゃんが漏らした言葉で思い出した。そうだ、オートマ車にもギアはあった。普段使っている「D」だけじゃなくて「L」や「2」があるじゃないか。  僕はレバーを「2」にして恐る恐る走り出した。ブレーキの効いている感覚がする。下り坂でもスピードが上がっていかない。良かった。僕は安全運転すべく超低速で走り続けた。  安心すると景色が見えてくる。四方を山に囲まれた田園地帯。稲も大分伸びてきている。こんな所で育ったお米は美味しいだろう。とにかく空気が美味い。 「そこを左に曲がったらあとはしばらく道なりよ」 「了解」  今度は上り坂だった。下りよりも恐怖感はない。しかし進むごとに道は狭くなり、脇の木の枝が垂れ下がり視界が悪くなってくる。道路にも枝や葉っぱ、石ころが転がっている。変なものは踏まないようにしないと……。 「ひゃー!」  路上にくねくねと蠢くナニモノかがいた。それを避けようとハンドルを切ると目の前にガードレールが! 慌てて反対にハンドルを切った。 「裕次郎! どうしたの!?」 「へ、蛇がっ!」 「とぐろ巻いてた?」 「いや、くねくねしてた」 「なら大丈夫よ」  山育ちのお祖母ちゃんは蛇なんて当たり前のようだ。 「うえっ……」  気持ちが悪い。酔ったようだ。僕は車を停めて外に出た。外の空気を吸うとさっぱりした。僕は大きく深呼吸をした。周りは木ばかりの大自然。マイナスイオンがいっぱいだ。こんな所で暮らすのもいいかもしれない。 「裕次郎、呑気にしてると熊に襲われるよ」 「えっ!」 「良く出るのよ。だから通学の時はいつも鈴を鳴らしてたもんだよ」 「ひーー!」  前言撤回。蛇は出るわ熊は出るわ。こんな恐ろしい所は住みたくない。僕は慌てて車を出発させた。
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