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しばらくは木の間や藪の中が気になって仕方なかった。熊が出てきたらどうしよう。車なら逃げられるだろうか。でもこのつづら折りの山道でスピードを出すわけにはいかない。体当たりされたら崖から落ちてしまうかもしれない。助けを呼ぼうにもスマホは圏外だ。こんな山奥を通る車なんていないだろう。どうしよう、どうしよう……。
「ついたよ。車停めて」
「え?」
周りを見たが家なんてない。もう誰もいないから取り壊してしまったのだろうか。それともお祖母ちゃんの記憶違いか。
車を停めるとお祖母ちゃんはおもむろに車を降り、脇の小道を下り始めた。慌ててエンジンを止め施錠した。
「お祖母ちゃん危ないよ!」
もう何年も人は歩いていないであろう、草が胸の高さまで伸び放題の獣道。それをお祖母ちゃんは迷う事なく進んでいく。僕も草をかき分け下り始めると、家の屋根が見えてきた。
「隠れ住んだってくらいだから、分かりづらい場所に家があるんだね」
「昔は上の道沿いにあったんだけど、地震で崩れたんだよ」
「え!」
自然の過酷さ、人間のしぶとさを感じた。
「懐かしいわ。大分くたびれちゃってるけど」
そこには屋根も崩れかけつる草に覆われた家があった。しかしとても大きく、僕の家の3倍は横幅がある。母屋の奥には土蔵もあった。草だらけだが庭も広い。
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