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雨粒が窓枠を叩く、微かな音が響いている。
「木の葉を隠すなら森を隠せ、なんて言葉がありますが。実際のところ、この葉を隠すために森の中に紛れさせる……そう言う考え方をする人は多いと思うんです。たくさんあるものの中に、そっくりなものを紛れさせてしまえば見つけるのは困難でしょう?さながら、砂漠に落としてしまった一粒の砂金を見つけるのは限りなく困難であるように」
「まあ、そだね」
「雨の中にもね、紛れやすいそうなんです。たくさん、たくさん、たくさん……降ってくる雨粒に紛れて、変なものが空から降ってきたり、地面から湧き出してくることがあるそうですよ。でも、普通の人間は、雨の音に気を取られてしまって気づかない。地面を流れる泥の中に血が混じっていても、雨と一緒に針が降っていても、水たまりの中に指が生えていてもわからない。場合によっては小さな小さな霊や悪魔に紛れて、もっと大きなものが混じってくることもある……らしいですよ」
ふふふ、と怪しげに赤い唇が弧をを描く。
「湧き出してきたもの、降ってきたもの。そういうものが全て、人に悪さをするとは限りません。もっと言えば、害をなしたとて悪意があるとも限らない。それこそ、ゴジラは映画において災厄の象徴として描かれることが多いですけど、あれだって人に危害を加えようと暴れているとは限らないでしょう?放射能をまき散らす巨大な物体、であるせいで、日本列島を通過するだけで人々に被害を齎すというだけで」
「あー、なんかわかりやすい例え……」
ゴジラ映画は、近年放映されたものだけいくつか見たことがある。放射能を放つ物体は、そこにあるだけで生物の健康を害してしまう。何よりゴジラは凄まじい巨体なので、ただ通過するだけで建物や人を踏みつぶしてしまい、たくさんの犠牲を出してしまうことになる。
ひょっとしたら怪異だの邪神だのと言われる存在の中にもいるのかもしれない。
本人に悪気などなくても、そこに“在る”だけで世界を滅ぼしてしまうような、何かが。
「悪意があろうがなかろうが、自分が世界にとって危険だとわかっていて、制御できる者はいいのです。この世界に来たことで誰かを傷つけてしまうかもしれない、と思ったら影に隠れるなり逃げるなりするでしょう?問題は、“そうじゃないもの”です」
そういうものはね、と澪は続ける。
「逃げ遅れるんですよ、往々にして。で、雨が上がったあとに取り残される。だから雨が上がった直後には、気を付けた方がいいんです。河川敷に見慣れない黒い岩がないか?いつもよりゴミ捨て場のゴミが多くないか?奇妙な白いカラスがいないか?それから……」
「そ、それから?」
「水たまりに、おかしなものが映っていないか」
気を付けて、と彼女は繰り返して、彰乃の肩を叩いたのだった。
「貴女は素質があるような気がするから。変なものが見えないように、できるだけ自衛をした方がいいと思うんです。友達としての忠告ですよ」
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