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***
ひょっとしたら、彼女は霊能力者とか、そういうものなのだろうか。
――なんかそれ、かっちょいいな。
教室で彼女の姿を見るたびに思う。美貌の、女子中学生霊能力者。その不思議な力で、悪霊に見舞われた友達を救う!――児童向け現代ファンタジーやホラーの主人公としてぴったりではないか。まあできれば、彰乃自身がそのポジションに収まりたかったところではあるけれど。
「あ」
彼女から話を聞いた、翌々日のことだ。長らく降り続いていた雨がやっと上がった。五時間目の授業で、雲間から見える“天使の梯子”を見た途端、ついつい感動してしまう彰乃である。
長かった雨が、やっと上がった。うまくいけば虹でも見えるだろうか。それから。
――変なもの、あったりするのかな?
恐怖は微塵もなかった。むしろ澪の話は、彰乃の好奇心を掻きたてるのに十分だった。
雨に混じって降って来た、あるいは湧き出してきた面白いものを見てみたい。見るだけならきっと変なことは何もないはずだ。ああいうのは触ったり、悪戯をすることで祟ると決まっているものなのだから。
雨上がりに出現する、“害はあるけど逃げ遅れたなにか”とは何なのだろう。単なる幽霊とか悪魔とか、そういうものとは違うナニカもきっとあるはずだ。
――もし見つけたら、きっと面白い。
退屈な日常を変えてくれるものになるかもしれない。晴れたことの気分の高揚も相まって、彰乃のテンションはマックスになっていたのだった。
だから、気づかなかったし、想像もしなかったのである。何故澪が、自分にあんな忠告をしたのか、ということに。
「おお、水たまり」
その日の放課後。
部活に行こうとグラウンドに出たところで、大きな水たまりを目撃することになった。そういえば、彼女は水たまりにも変なものが映ることがある、みたいなことを言っていたような。
――今のところ、空と私の顔しか映ってないけど……。
思わずしゃがみこんで覗き込んでいた、その時だ。
「あれ、彰乃ちゃん?何見てるんですか?」
「あ、澪ちゃん、いま……」
いつもの優しい声がした。彼女を振り向いてもう一度水たまりを見た彰乃は。
「エ」
喉から。
今まで聞いたこともないような濁った悲鳴を、迸らせることとなったのだ。
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