0人が本棚に入れています
本棚に追加
その2 マリーゴールドの種(1)
冒険者ギルドに併設された食事処〈文目の詩〉。ここにはスタッフによるクエストの斡旋という、変わったサービスがある。
そして、スタッフの鑑定眼が確かなこともあり、それを目当てに店に通う者も少なくない。
「また会ったわね」
店に入ると、赤いメイド服の少女と目があった。
芯の強そうな、小柄でツインテールが似合うこの店のスタッフ。少し肌が白く、耳の先が尖っているのは、エルフの血が入っているのだろう。
ゴブリンの巣の探索で命運を共にした相手。忘れるはずもない。
「ふぅん。覚えてたのね」
微かに嬉しそうに、少女は言う。
「ねぇ、あんた。そういえば名前、なんていうの?」
名前を問われる。
クエストを受注する時に、スクロールに書いた気もするが……。名前の韻の踏み方を知りたいということだろう。音の響きが大きな意味を持つ種族も、世の中には存在する。
故に、ここで名乗らない理由はない。
「シーク? シークね」
少女はこちらの名前を反芻し、そして
「私はルティネア。ルティでいいわ」
自身の名を告げた。
互いの名を知る。それは、他人ではなくなるという意味を持つ。
「それであんた、これから時間はある? お願いしたいクエストがあるんだけど」
前回もそうだったがこの少女、ルティはなかなかに押しが強い。話を聞かないという選択肢は、おそらく存在しないだろう。
「ありがと。そう言ってくれると思ってたわ」
そして、1枚のクエストスクロールが渡される。
「内容はキャラバンの護衛。南の街まで一晩かけて荷物を運ぶんだけど、野盗対策で護衛が欲しいって話になったの」
野盗対策。つまりそれは、ヒトを相手にするクエスト。少し厄介な気が、しないでもないが……。
「それじゃ、出発は今日の正午。街の南門によろしく。あんたなら、それまでに準備できるわよね?」
ルティの中で、クエスト受注は決定しているらしい。
普段ならもう少し考えるところだが、ルティが勧めるクエストなら乗せられてみるのも面白いと、根拠もなくそう思えた。
最初のコメントを投稿しよう!