その2 マリーゴールドの種(1)

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その2 マリーゴールドの種(1)

 冒険者ギルドに併設された食事処〈文目の詩〉。ここにはスタッフによるクエストの斡旋という、変わったサービスがある。  そして、スタッフの鑑定眼が確かなこともあり、それを目当てに店に通う者も少なくない。 「また会ったわね」  店に入ると、赤いメイド服の少女と目があった。  芯の強そうな、小柄でツインテールが似合うこの店のスタッフ。少し肌が白く、耳の先が尖っているのは、エルフの血が入っているのだろう。  ゴブリンの巣の探索で命運を共にした相手。忘れるはずもない。 「ふぅん。覚えてたのね」  微かに嬉しそうに、少女は言う。 「ねぇ、あんた。そういえば名前、なんていうの?」  名前を問われる。  クエストを受注する時に、スクロールに書いた気もするが……。名前の韻の踏み方を知りたいということだろう。音の響きが大きな意味を持つ種族も、世の中には存在する。  故に、ここで名乗らない理由はない。 「シーク? シークね」  少女はこちらの名前を反芻し、そして 「私はルティネア。ルティでいいわ」  自身の名を告げた。  互いの名を知る。それは、他人ではなくなるという意味を持つ。 「それであんた、これから時間はある? お願いしたいクエストがあるんだけど」  前回もそうだったがこの少女、ルティはなかなかに押しが強い。話を聞かないという選択肢は、おそらく存在しないだろう。 「ありがと。そう言ってくれると思ってたわ」  そして、1枚のクエストスクロールが渡される。 「内容はキャラバンの護衛。南の街まで一晩かけて荷物を運ぶんだけど、野盗対策で護衛が欲しいって話になったの」  野盗対策。つまりそれは、ヒトを相手にするクエスト。少し厄介な気が、しないでもないが……。 「それじゃ、出発は今日の正午。街の南門によろしく。あんたなら、それまでに準備できるわよね?」  ルティの中で、クエスト受注は決定しているらしい。  普段ならもう少し考えるところだが、ルティが勧めるクエストなら乗せられてみるのも面白いと、根拠もなくそう思えた。
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