その2 マリーゴールドの種(2)

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その2 マリーゴールドの種(2)

 一昼夜のクエストであっても、用意するものはあまり変わらない。  水と食料を少し。  身体が資本であるため、あまり元手がかからないのが冒険者という職業だった。 「いい天気ね。絶好の行商日和。そうは思わない?」  尋ねられ、少し戸惑う。  どういうわけか今回のクエストには、ルティが同行していた。  南の方に用事があるということだが、メイド服の彼女と一緒にいると、何故か妙に気を使う。外でもその服装はどうかと思うが、深くは気にしないでおく。  荒れた街道を、キャラバンが進む。  キャラバンの構成は、行商人7人と一頭建ての馬車が5台というそこそこのもの。  荷物は魔法関係の交易品。満載ではないため、荷台の片隅に乗せてもらっている。 「何もなかったら、明日までゆっくりできるんだけど……」  言いかけて、ルティは動きを止める。 「あれ、土煙? 馬みたいだけど……」  キャラバンの後方、それと前方から、接近する集団の姿があった。 「13……違う。16はいる。もしかして、野盗?」  おそらくそうだろう。  武器を掲げ、目的もなく荒野を走り回る文化があるのなら話は別だが、そのような文化があるはずもない。 「どうしよ? 本当に出てくるなんて……」  これがクエストである以上、対応するしかない。 「隠れてろって……。怪我、しないこと。これだけは約束して」  ルティを幌の中に潜ませ、砂の上に降り立つ。  キャラバンは足を止めていた。  野盗はキャラバンの周囲に円を描くように、包囲を形成しつつあった。  状況が固定されると面倒なことになるのは明らかで、切り崩すために先手を取る。 「〈雷光よ 走れ〉ライトニングボルト!!」  選んだのは、魔法だった。  護衛がいることを知らしめるために、最も派手なものを選んだ。  放つ紫電が近くにいた野盗を穿ち、吹き飛ばす。  この魔法は雷撃を放つもの。  空を裂く光は派手だが、威力は大したことはない。直撃しても、大人が失神する程度。  牽制のために雷撃を放つ護衛をどの程度の脅威と見るかは、相手次第ではある。 「〈雷光よ 走れ〉」  2人目を撃つ。  野盗の総数は16程度。その内の2人が早々に戦闘不能になる状況は、看過できないもののはず。  読みが当たり、笛の音が響いた。  その音に反応して野盗たちは包囲を解き、撤退していく。  雷撃を受けた者を回収し、振り返ることなく走り去るその手際は、見事なものだった 「終わった? 野盗は? 追い払ったの?」  状況を察し、ルティが幌の中から顔を出す。怯えているかと思ったが、そうでもないらしい。 「あんた、やっぱりすごいのね」  追い払ったという表現は、正しくない。  野盗は計画的に撤退していった。それが意味するのは、次の襲撃が有り得るということ。  どうやらこのクエストは、一筋縄ではいかないらしい。
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