虹がかかればそれでよかった

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虹がかかればそれでよかった

 子供達が安心安全に使える玩具を作る。それが、我が社の理念だった。キャッチコピーは“世界中の子供達を喜ばせるものづくり”。その象徴として、我が社のエンブレムには虹を象ったマークが取り入れられている。 「今年で、我が社も設立から三十周年を迎えた」  どっしりした体格の老紳士、といった風貌の我が社の社長は、ニコニコとした笑顔で私達広報課に告げた。それがつい一週間ほど前のことである。 「そういうわけで、我が社の新しい宣伝広告を打ってもらいたい。ホームページなどのネット広告はもちろん、今回は特別に新聞にもでっかく広告を出させて貰おうと思っている」 「お、いいですね社長」 「お金かけますねー!」 「安心しろ、何も有名なデザイナーに依頼して絵を描いてもらおうとかそういうんじゃないんだ。むしろ、我が社の社員たちが一生懸命作り上げた作品だからこそ意味があると思ってる。何より、広報課には優秀なデザイナーたちが揃っているわけだしな」  優秀。  そう言われて、私達も悪い着はしない。ついついスカートの足をきっちり揃えて、背筋を伸ばしてしまう私である。  この会社に勤めて、私も十年以上が過ぎた。四十歳を超えて、これからもバリバリ現役で働きたいと思うのはここが多様性を重視した器の大きい会社であればこそ。  男女が同じくらいの数ずつ在籍し、障害者枠として取った車いすや盲目、発達障害の社員たちも安心して働ける環境づくりを目指している。ユニバーサルデザインの理念の顕現したおもちゃを作っていくのだ、会社の内部も“誰もが笑顔で仕事ができる環境”を目指していかなければいけない。それが、どれほど困難な道だとしても、だ。 「社長もこうおっしゃってるわ」  私も広報課長として、皆を鼓舞することにした。 「三十周年に相応しい、最高の広告を作りましょう!明日からミーティングの時間を設けます。みんな、それぞれアイデアを用意して持ってきて頂戴ね」 「はい!」 「わかりました!」 「了解いたしました!」  社員たちがそれぞれ威勢の良い返事をしてくれる。私は満足して頷いたのだった。
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