虹がかかればそれでよかった

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 ***  ポスターの原案は、早々に決まった。  我が社はどんな子供であっても使いやすい玩具づくり、を目指す会社である。ポスターに子供のイラストは必要だろう、ということになった。同時に、我が社は“虹”をモチーフにしている。どこかに虹の絵や写真も入れたいところ。  最終的に写真にするか絵にするかはまた後で考えるとして(昨今まだまだ問題が多いので、最終的にAIで作る案は早々に却下された)、簡単な構図だけは決めておかなければいけない。  よって原案を提示し、ここからいかに修正していくかを皆で話し合うことになったのだが。 「とりあえず、今のところの原案はこれです」  私が見せたのは、イメージ画像としてイラストが描ける社員に作ってもらったラフだ。  雨上がりの学校のグラウンド。こちらに背中を向けた男の子が、空の虹に向かって嬉しそうに手を伸ばしている、というもの。シンプルだが“虹=我が社の理念を喜んでくれる子供”という実にわかりやすい構図ではなかろうか。  私的には、このまま通しても全然良いと思っていたのだが。 「待ってください、課長」 「はい、鈴木さん」  異を唱えたのは、私より二年先輩、四十五歳の女性係長だった。 「うちの理念は“多様性の重視”のはずでは?何故、当然のように子供が男の子なのかしら」 「え」 「子供の代表は男の子である、という規定概念は覆していかなければなりませんわ。我が社こそ、男女平等を真っ先に示す先駆者であらねばなりません。ならば、ここは女性進出の象徴として、子供は女の子にするべきですわ!」 「その考え方はおかしいでしょう」  異を唱えたのは、二十代の男性正社員だ。 「子供を女の子に代えるというのは、男女平等ではなく女性優遇の考えでは?本当に平等にというのならば、男の子と女の子の両方を登場させるべきだと思いますよ、僕は」 「た、確かに」  一瞬、女性係長の言葉に流されそうになった私だったが、本当に男女平等をというのならば“女性優遇”ではいけないだろう。係長は少々不満そうにしていたが、ここは男性正社員の意見の方が正しいように思われる。  私はラフ画の空白に、“男の子と女の子を両方入れる”という案を書き足した。 「あの、待ってください」
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