虹がかかればそれでよかった

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 おずおずと手を挙げたのは三十代女性の契約社員だ。 「子供達二人だけ、他には誰もいない……だと。なんかその、違うクレームが来るような気が」 「違うクレームって?」 「子供達だけほったらかしにして、親は何やってるんだって言われそうで。あ、あたし、よくそういうこと言われちゃうんです。子供達が子供達だけで遊んでいる間にスマホ見たり、休んだりしただけでご近所の人に目を離すなって叱られちゃって。そ、そういうのは避けたいかなって。この子、まだ小学校低学年くらいだし、追加する女の子も同じくらいの年齢で想定してますよね?だったら、お母さんを一緒に立たせるべきかなって」  まあ、世の中には斜め上のクレームをしてくる人がいるのも事実だ。リスクは避けて通るべきだろう、と私は空白に“お母さんを一緒に書く”と追加した。  すると、さっき男女平等を!と訴えてきた女性係長が再度口を挟んでくる。 「なんでお母さんだけ追加なのよ!子育ては父親と母親が両方でするものでしょう?女ばかり育児をしなければいけない、なんてイメージを押し付けるのはごめんだわ。課長、お父さんも書き足すべきです!」 「そ、そうね、うん」  言いたいことはわかるが、さっきから係長の勢いはちょっと怖い。私は“お父さんも一緒に書く”を追加する。  会議が始まって、まだ十五分。この時点で、私はだいぶ嫌な予感がしていた。なんせここには十八歳から六十七歳まで、外国人や障碍者も含めた多種多様な男女がいるのだ。それぞれの立場から“平等”を主張されたら、しっちゃかめっちゃかになる予感しかしなかったからである。  案の定。 「そもそも、子供って小学生だけというのがおかしいような気がします。中学生や幼稚園児、赤ちゃんだって我が社の商品の対象では?」 「お父さんとお母さんだけ書くというのも反対だわ。さながら、異性同士のカップルだけが正しいみたいじゃない。あたし達同性カップルへの配慮もしてください。女性同士の親、男性同士の親も追加するべきよ」 「そもそも若い親だけというのもなんかねえ。俺達みたいな高齢者は、もう家族じゃないって言われてるみたいで悲しくなるよ」
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