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絵麻は、目の前にいる生田が、相手に合わせて如何様にも印象を変えることのできる種類の男性だと気づいた。
絵麻は幼い頃から成り上がりの金持ち連中の中にいたため、外面で内面を隠した人間たちを見慣れていた。生田のような人間は珍しくなかったが、自分よりも若いこの男性が、自分よりも多くの人間と関わってきていることはわかった。男性はもちろん、女性に対してもかなり慣れている。
この生田にとっての早苗は、関わってきた多くの女性の内の一人なだけだ。旦那が知り合いであることも初めてではないように思える。子供のいない夫婦で旦那が承知しているならば、それは単なる火遊びだとして済むのかもしれない。
しかし、この遊び慣れた男には想像もできないのであろう。遊びに利用された女性にとって、そんな事情以前に大事なものがあるということを。
夫以外の男性を愛してしまった罪悪感と、恋をしてしまった高揚感との間で自己嫌悪に苦しむこと。不倫の定義はさておき、身体の関係までは行かずとも、自身に芽生えた感情そのものに対する衝撃、それがもたらす自己否定。
早苗のようにモラハラを受けていればなおのこと、夫に対する執着と、それに反する自身の恋心に戸惑い悩み、大いに苦しんだことだろう。可哀想に。
この男はなんて自分本意な考えを持っているのだろう。自分が楽しいからという理由だけで他人を弄んでいる。
絵麻は、怒りを抑えて冷静な口調になるように努めて言う。
「早苗さんが先輩の奥さんだと、いつ知ったのですか?」
「1ヶ月前かな?早苗さんを自宅へ送ったあとに、先輩の車が駐車場に入ってきたので声をかけました」
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