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呼吸を整えた智也は、早苗を車から引きずり下ろすと、駐車スペースに車を停め直した。焦りで震える手を抑えながら、スマホを操作して耳に当てた。
「雅紀か?ちょっと家の駐車場に来てくれないか?」
3分後、黒のセダンが駐車場へ入ってきた。
智也は車から降りてきた生田と目を合わせると、視線でコンクリートの上を見るように誘導した。
「お前、こいつを病院へ連れていってくれないか?」
顔中を腫らして血を流し、意識を失った状態でコンクリートの上で横になっている早苗を見た生田は、驚きのあまり何も言えず、智也の声も耳には入らない。
「おい、雅紀! こいつを、お前の車に乗せて、どっかの病院へ連れてってくれ!」
智也は、反応せず驚愕したまま固まっている生田の肩を揺すぶりながら大声で言った。
「えっ?」
揺すぶられた生田は、ようやく智也が話しかけていることに気がついた。しかし肩を掴んでいた手は既になく、智也の姿も目の前から消えていた。
生田が探して後ろを振り向くと、智也は生田の車の後部座席を開けて、早苗の後ろへ回り込み、両脇を抱えた形で支え、そのまま車に引きずろうとしていた。
それを呆然と目で追っていた生田に気づいた智也は、怒鳴り声をあげた。
「手を貸せよ!」
生田はその声に反応し、智也に言われるがまま早苗の両足を抱えると、手伝って後部座席に早苗を寝かせた。
「どうしたらいいんだ。俺がやったってことがバレるのはまずい。離婚に響いちまう。暴行されたことにしようか。お前がこいつを犯せば、駐車場でレイプされたってことで、この怪我も俺がやったんじゃないってバレないかな?」
「何言ってんすか!? そんなことできるわけないでしょう?」
生田は智也の言葉に驚いて叫んだ。
「大きな声を出すな!」
自分の怒号は忘れて生田をたしなめた。智也は小声で続ける。
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