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ヒソヒソと小声で話していたつもりだが、興奮しているためか、自分たちが思っている以上に声は大きかった。辺りは住宅街なため、ひっそりと人気がないことも影響していた。
「見られてるし、救急車も警察も呼びました」
突然、背後から聞こえた女性の声に二人は跳び上がるほど驚いた。実際に数センチは身体が動いていた。
「そこのあなた最低ね。こんな最低な男は見たことがないわ。そっちのあなたも大概だけど、暴力を振るっておきなから誤魔化そうなんて神経を疑うわ。これは犯罪よ」
見つかってしまったことで緊迫し、全身から汗が噴き出した二人は、恐る恐るといった速度で声のする方へ顔を向けた。
そこには街を歩けば何人もの男性が振り返るような美女が立っていた。しかし表情は険しく、これ以上憎みきれないと言うほどの苛立ちを浮かべて二人を睨んでいた。
相手が若い女性一人だけだとわかると、智也はホッとして安堵の表情を浮かべた。全身が湿るほど噴出していた汗も引いていた。
「あんた誰だよ。人違いじゃないの?こんなとこで何してんの?」
智也は冷静さを取り戻し、横柄な態度で女性を睨みつけた。
「さっき女性を殴って気絶させて、そこの車の後部座席に押し込んでたでしょ。見てたわよ」
「あー、そのことか。いやいや、それはあんたの勘違いだ。酔っ払っちまったんで、寢かせやっただけだ。こいつが今から送るんだ」
「そう。じゃあ、様子を見ても構わないわね?」
女性が車の方へ近づこうと足を踏み出した。それに気づいた智也は素早い動きで女性と車の間に割って入る。
「いや、なんでだよ。誰だよあんた。つーか関係ないっしょ。俺らの仲間なんだから、俺らが見るわけ。どっか行けよ」
「仲間?夫婦じゃなくて?」
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