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智也は返答に詰まった。どこから見られていたのだろうか。面倒なことになった。このままこの女も黙らせてしまおうか。
二人のやり取りを呆然として見ていた生田は、その場の中で誰よりも早く、緊急車両の鳴らすサイレンの音に気がついた。
すぐに智也にも聞こえたようで、聞こえた途端に身体を強張らせた。音は少しずつこちらへ近づいている。
女性が不敵な笑みを浮かべる。
「気づいてすぐ呼んだのよ。さっき言ったでしょ?」
その表情を見て決心したのか、智也は無言で自分の車の方へ走りかけた。
「あっ、だめだめ!」
女性がすぐさま声を張り上げた。その声で驚いた智也は立ち止まる。
「逃げちゃだめよ。てか、逃げても無駄でしょ。むしろ罪が重くなるって」
智也は車の方へ行きかけたため身体はそちらを向いていたが、声に反応したことで女性の方へ顔を向け、そのまま動けなくなった。
生田はどうしたらいいのかわからず落ち着かない様子で二人のやりとりを見守っている。
「あんたらみたいなクソ野郎には反吐が出る。絶対に許さない」
女性が睨みつけながら大きな声でそう言うと、二人は再び身体を強張らせた。
徐々に近づいてくる緊急車両のサイレンの音が、さらに二人の顔を引きつらせていた。
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