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なんとか二人を逃さずに女性を救急搬送することができた。
警官に夫からの暴行だと事情を説明したが、当の本人は夫だからということで、早苗に付き添って救急車に乗り込んで行ってしまった。
残された絵麻と黒のセダンの男性は、警官に連絡先を聞かれたあと、後日連絡をするから帰宅しても構わないと告げられた。
さらに多くの警官が機材を持って現れたので、邪魔になると思っておとなしく帰ることにした。
車に乗り込もうとした時に声をかけられた。黒のセダンの男性だった。
「すみません。少しよろしいですか?」
絵麻は毅然とした表情を作って振り向くと、男性に向かって頷いた。
「あの、あなたは早苗さんのご友人ですか? 偶然こちらへ来られてたのでしょうか? 智也先輩はあなたを知らないようでしたけど」
捨て台詞でも言いに来たのかと身構えた絵麻は、意外にも口調が紳士的だったことに肩透かしをくらった。絵麻が黙っていると、相手はさらに言葉を続けた。
「訪問するにも時間は遅いですし、早苗さんの姿が見えたとは思えないので、どういった事情でいらっしゃったのかなと……」
黙ったまま相手を観察していた絵麻は、女性受けしそうな端正な顔立ちと、一目で好感を与える表情と物腰とを見て、相手は場馴れしていることに気がついた。
「えっと、仰る通り、あの怪我をされた女性やその旦那さんとは全く面識がありません。通りすがりです。あんな大声で話されていたら、私以外にも通報した方は少なくないのではないでしょうか」
絵麻は相手を睨みつけながらも、口調は冷静さを保って言った。
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