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「失礼でなければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?僕は、生田雅紀と申します」
生田は絵麻の鋭い視線を真正面から受け止めたまま、自分は穏やかな表情を浮かべてそう言うと、軽く頭を下げた。
「これはご丁寧に。私は進藤絵麻と申します」
育ちの良い絵麻は、丁寧な対応をされるとそれに釣られて思わず丁寧な対応を返してしまう。
「ありがとうございます。それでは早苗さんとは無関係の方なんですね。失礼いたしました」
生田は再び頭を垂れ、素早く翻ると自分の車の方へと歩き出した。
「生田さん!」
絵麻は考えなしに呼び止めてしまった。
振り向いた生田と目が合うと、思わず呼びかけてしまった自分の行動に混乱し、一瞬戸惑った。
返答に焦った絵麻は、自分の行動を自然な形に収めようとする本能的な働きからか、自分でも驚いてしまうようなことを口走った。
「どこかでコーヒーでもいかがですか?」
その言葉に意表を突かれた生田は面食らい、相手の意図が読めず反応に迷ったが、それを顔には出さなかった。
女性からの誘いも多く、場馴れしている生田は、初対面の女性が自分に向けた何十回目かの言葉を耳にして、自身の日常を取り戻した。
「喜んで」
冷静に戻った生田はにこやかに微笑むと、そう答えた。
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