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「もしそれが本当でしたら凄い偶然ですね。ネットの人に街中で出会うなんて。可能性としてはゼロではないでしょうが、それにしても驚きです。しかも探していれば別としても、偶然気付くなんてことは……ほとんど不可能なことなのでは」
生田の反応を見ると半信半疑のようだが、やや疑の方が強い印象を受けた。絵麻の説明に対してではなく、それが本人だったという点で。
「それを説明したいからお誘いしたわけではないんです」
絵麻は本題に入ろうとして、声のトーンを低くした。
「僕自身を誘っているわけでもないでしょう」
生田は平静さを取り戻したことで、軽口を叩く余裕がある。
「生田さんは、早苗さんを騙していたのですか?」
旦那の小細工に反対し、微弱ながらも非難していた生田を見て、酷いことをしてはいるけど、一線は越えないだけの誠実さは残っていると判断した絵麻は、ストレートに疑問をぶつけることにした。
予想はしつつも不意を突かれた生田は、肯定の表情を隠しきれなかった。
「ですよね」
絵麻は相手に言い訳をさせる隙を与えぬように、すぐに応答した。
「しかし同情はしていたし、深入りは避けていた、って感じですか?」
真剣な表情の絵麻に対して、緊張した空気を一掃するように、敢えて朗らかな調子で生田は応える。
「早苗さんは職場の同僚なんです。僕は女性と交遊するのが好きなので、パートで入って来られた早苗さんに惹かれて話をしてみたくなっただけです。それ以外の意図はありません」
「先輩と呼んでいらっしゃいましたし、旦那さんと連絡を取っていらしたようですが、コンビニで顔を合わせたときはお互いに他人のように振る舞っていらっしゃいましたよね? あの意図は?」
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