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「連絡を取り合うなんて大袈裟ですね。電話が来たから駆けつけただけです」
考えていた以上に見られていたことに驚きつつも、生田の調子は変わらない。
絵麻も生田の対応に怯まず、畳み掛ける。
「いえ、早苗さんとご一緒していらしたレストランでも電話をされていましたよね?」
「ストーカーみたいですね。どこからつけていらしたのかわかりませんが、他人のプライベートをそこまで追いかけ回しているとは、なかなか趣味が良いとは言えませんよ」
絵麻にそう応えながら、生田の頭の中では今日一日の行動を遡り、記憶の中に目の前の女性の姿を探していた。
「先ほどの質問の答えをまだいただいておりません」
「早苗さんを騙していたか、という質問ですか? 僕がご主人の後輩だと自覚していながら二人きりになっていたことが、騙していたことになるのですか?倫理的に正しいとは言えませんが、確かに最初から既婚者だとは知っておりました。義理のお母さんが先に働いていらして、息子の嫁ですと紹介されていましたから。褒められたことではありませんが、結婚されている女性にアプローチをするというのは、独身の方を相手にすることとはまた違った楽しさがあるんですよ。早苗さんを気に入ってしまったこともありますが、その刺激も楽しみたかった。ですが不倫なんてところまでは行きませんよ。面倒ですし、僕はそこまで女性にのめり込まない質なので」
生田は丁寧な物腰は維持しながらも、爽やかな印象を与える仮面は崩れかけていた。
不敵な笑みを浮かべ、自分の価値観に対して自信があり、何を言われても動じない、とする余裕を隠そうともしなくなっていた。
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