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「早苗さんを好きだと思ったことはありますか? 彼女に愛を感じたことはありませんでしたか? 本当に自分の楽しみのためだけの存在だったのですか?」
「僕とあなたは初対面だ。その関係としては異例なほど踏み込んだところまで、僕はあなたの問いに答えてきました。僕には何もメリットはないのにですよ」
「メリットはあるでしょう。私の問いに答えることで、罪ほろぼしになると考えたのではないでしょうか?」
「罪ほろぼし? あんな現場を見られたわけですから、僕はあんな卑劣な暴力はしていないと、その点は無関係だとご説明したかったわけですよ」
「それは、聞かれたら警察にお話すればよいことでは?」
生田はそのやり取りがおかしくなり、息を漏らして微笑した。
「そうですね。僕は何をしているのでしょうか。あなたに説明しても何も意味はないのに」
「私が早苗さんの友人なら、私に説明することで、彼女への言い訳になると思えたのでは?」
「でもあなたは友人ではないですよね?可能性がゼロではないというだけです」
そう言うと、生田は絵麻の方へ向けていた視線を窓ガラスの方へ逸らした。その表情を伺うと、生田は考えにふけっているようだった。
絵麻は帰宅することを考え始めた。生田に聞きたいことはなくなっていたからだ。
30秒経っても生田は同じ姿勢のまま動かないので、絵麻は帰宅する旨を伝え、コーヒーの代金をテーブルに置くと、その場から立ち去った。
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