絵麻【1】

7/9
前へ
/227ページ
次へ
 清澄の父と絵麻の父は、二人とも裕福な家庭に育ち、大学で出会って意気投合し、関連分野の企業に就職したあと、両家の親からの資金援助を伴って共同で会社を設立した。以降、公私共に仲が良いと評判になるほどの関係を築いている。妻たちの反感に気づいてはいたが、子供同士を結婚させるという、大学時代に酒の席で交わした約束を実行させるだけの強引さはあった。  いわゆる許嫁である清澄に対して、父親からは仲良くするように厳命されていたのに、母親は清澄だけでなく、進藤家との付き合い自体に否定的で、言葉にこそ出さないが、あまり親しくならないようにと仄めかされていた。  兄弟のいない絵麻とは違って、清澄には姉がいた。幼少期の頃から姉の清香は清澄の側から離れず、二人は常に一緒だった。清澄は姉が離れると、不安そうな態度でオロオロとするばかりで、まともに遊べた覚えはない。仲良くしなければならない義務感と、許嫁相手に非協力的な清澄の対応との狭間で、苦い思いを何度も味わっていた。  清香は、物静かで美しい娘だった。色白で、背中の中央まである黒く長い髪、ほっそりとした手足と、落ち着いた品の良い仕草が、まるでお人形のようだと評判だった。  見た目の美しさだけでなく、繊細で丁寧な物腰、声量は小さくても歯切れがよく理知的な喋り方など、美を体現しているような魅力のある人物だった。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加