絵麻【1】

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 絵麻は、父から前向きな性格と活発さを受け継ぎ、母からは濃いブラウンのカールがかった美しい髪と、誰もが振り向くほどの整った顔立ちを受け継いでいた。幼い頃から可愛らしく、絵麻を見た誰もがその美しさを褒め称え、絵麻は自分の容姿に自信を持っていた。しかし、清香に出会ったとき、生まれて初めての劣等感を抱いた。  清香は、関わる相手を自分で選んだ。自分に必要のある人物としか視線を合わせないし、言葉もかけない。清香は絵麻に対して、必要最低限の挨拶以外は存在していないように扱った。  絵麻は劣等感を抱きつつも、美しく洗練されたお姉さんとして憧れ、仲良くなろうと努力してきたが、素っ気ない態度でしか応えてもらえず、清香にとって自分は不必要な存在なのだと気づくと、清香に対して不快な感情が芽生え、次第に嫌悪感が増していった。  清澄と結婚してしまえば、姉弟の仲がいくら良くとも、夫と妻との間に問題はないだろうと楽観的に考えていた絵麻は、甘い考えだったと思い知らされることになった。  絵麻と清澄の結婚は、式を挙げ、紙切れにサインをしただけの関係で、結婚以前と以後の変化はほとんどなかった。  絵麻は自宅と名字が変わり、清澄の最も身近な存在になったが、清澄との会話量も、会う頻度も変化はなかった。清澄と清香のそれも同様で、以前と変わらず姉弟は常に側にいたし、絵麻は蚊帳の外だった。
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