早苗【9】

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 EMA522からのメールを読んだ早苗は、今まで思い込んでいた理屈がいかに歪んだものだったかに気づかされた。   自分の両親の関係を顧みると、それが具体的に実感できた。  母は専業主婦ではなかったが、父がいる日でも好きなように友人と出かけていたり、衝動買いをしたと言って父の断りもなく早苗に洋服やおもちゃを買ってきたりしていた。  父は家事を当たり前のようにやっていた。父と母とで役割分担をしていたほど家事に関わっていた。父が休みの日は三食とも父が料理をしていたし、水回りの掃除も父しかやっていなかった。  思い返せば、食後の食器洗いや洗濯物の片付けは、それぞれ個人が自分の分を処理していた。母だけが家事をやるなんて、そんな実態はなかったのだ。  両親も自分たちと同じ夫婦という関係であったことを、早苗は今になってようやく気がついた。  両親という別の視点で捉えていて、自分たちと同じ夫婦だと考えたことがなかったのだ。義実家に関しても同様で、義両親だという目でしか見ていなかった。  早苗の思考は堰を切ったように発展した。あれもそうではないか? これもそうではないか?と、自分の視点の歪みを続けざまに発見した。  夫や義家族の言う理想の妻像とやらを考えなしに受け入れて、それを目標として義務をこなしていくことが妻としての愛情表現なのだと思い込んでいた。
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