絵麻【9】

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 翌日の午後、絵麻は予定の時間よりも早くファミリーレストランに到着した。サカを尾行したあと、サカと共にいた生田という男性と入った店である。  今回はうさんくさい男性を観察しながら少しでも情報を得ようと苦心する必要はなく、最も親しい友と初めて対面し、たっぷりと語り合う楽しみがあるだけだった。  時間は午後1時50分。  絵麻は、緊張してコーヒーのカップを握る手が少し震えていた。  遠目からの姿と後姿だけは見ていたが、正面からは見ていなかったし、相手から見れば初対面だ。お互い判別できるだろうか。  ドアベルの音色が響く度に入口のドアに視線を向け、サカの姿を探す。カップルや家族連れ、スーツ姿の男性客か中年女性の集団ばかりで、女性の一人客はまだ現れない。  2時前後になると、女性が一人で店に向かって歩いていないかと窓ガラスの外にも目を走らせていた。  絵麻は2週間前に見たサカの姿を思い出す。  確か、サカは黒のロングヘアで、背は絵麻よりも少し小さいくらい。太りすぎず痩せすぎず、20代としては平均的な体型だったようだ。服装の趣味は、仕事終わりだったからかオフィスカジュアルといった感じの、ベージュのスラックスに白のブラウス、足元はヒールの低いパンプスだったと思う。  サカとのやり取りから、普段はどんなファッションなのかを想像してみた。  主婦だし金銭的に自由がないのだから、学生時代に購入したものを着回しているのだろうか。  などと考えを巡らせて、待つことしかできない焦れったさを少しでも解消しようとしていた。
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