絵麻【1】

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 何不自由なく、全てを自由にしていいと育てられたが、両親の関心は娘そのものにあったのではなく、結婚というゴールにあった。そのための躾、そのための教育が与えられ、そのために生かされた。  絵麻は、そのゴールを果たせば目的が叶い、全てが劇的に変わるのだろうと期待していた。そのために勉強もスポーツも努力し、様々な稽古事をこなし、優秀だと褒められるように努めた。  清香を超えるほどの完璧なレディになれば、清澄も絵麻の方へ興味を持ち、両親も認めてくれて、自分は幸せになるのだろうと考えていた。  しかし結果は、形式上の変化だけで、人々の関心も評価も全く変わらなかった。  清香を超えようが、絵麻が優秀だろうが、そもそも誰も絵麻自身に関心がなかった。  ゴールはただの紐で、くぐったところでただ自分のいる位置が少しずれただけ。周りの風景に大きな変化はない。足元を確認しても、次へ向かう先はもう示されていない。どこへ向かえばいいのか、教えてくれる人はいなくなった。どこへ向かうのか、どこかへ行くのかすらも、自分で考えなければ、立ち止まったままだった。
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