絵麻【9】

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 サカのアパートは知っているが部屋番号まではわからない。調べることができたとしても、万が一旦那が在宅をしていたら面倒なことになる。絵麻はサカの夫と顔を合わせているからだ。  4時30分を回った。  絵麻は途方に暮れて疲れ始めていた。連絡手段はあるわけだから一旦帰宅してメールを待つことにしようかと、そう考えたのちに決意を固め、レジを済ませた。  店外へ出て車へ向かうと、バッグの中のスマホが振動した。  振動に気づいた絵麻は、瞬間身体を震わせた。  急いでスマホを取り出すと、見知らぬ番号からの着信だった。数秒考えた末、30分前に自らが押した番号だと気づくと慌てて受話ボタンを押した。 「すみません、亀川製菓の生田と申します。電話を受けられず失礼いたしました。失礼ですが、どういったご要件でしょうか?」 「あの、進藤と申します。お仕事中にすみません」  「進藤様ですね、はい、いかがなされました?」  相手は取引先の誰かだと思っているようだ。 「あの、えっと、2週間ほど前の深夜に、ファミレスでお話した……」 「はい。……え?」 「えっと、すみません。早苗さんの友人です!」 「えっ……」  3秒ほどの間が開いて、生田の声が続いた。 「あぁ、あのときの、警察と救急車を呼ばれた、あの」 「そうです。進藤です」 「えーっと、今仕事中で……。うーん、急ぎですか?」 「すみません急ぎなんです。あの、今日、その早苗さんと初めてお会いしようと待ち合わせをしていたのですが、2時間以上経っても来られなくて、その、どうしようかと……」
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