絵麻【9】

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「え? どういうことですか? 早苗さんとネット上の知り合いかもしれないと仰っていましたが、じゃあ、本当に、本当だったんですか?」  生田の声から、驚愕の表情が察せられる。 「はい。あのあと連絡をとってお名前を伺ってみたら早苗さんで、旦那さんのお名前も生田さんのお名前もご存知で、というか、はい、間違いありませんでした」  5秒ほど間があったのちに、生田の冷静な声が聞こえた。 「そうでしたか。いや、驚きました。まさか……。はい。そうでしたか」 「はい」 「それで、えっと、早苗さんと今日お会いすることになっていらしたと」 「そうです。2時間半待っててまだいらっしゃらないので、何かあったのかなって。あの、Xのメールでやり取りをしていただけで、電話番号もわからないので、あの、返信もないし……」 「すっぽかされたか、勘違いか」 「早苗さんがすっぽかすような方だと思いますか?」 「いや、えーっと、僕の見た限りではそうは思いませんが、誰しも見えない部分ってものがありますから、可能性として言ったまでです」  生田の声には、相手を鎮めるためにか、冗談事にして済ませようとするおどけた響きがあった。 「おっしゃいりたいことはわかります。でも、メールの印象からもそんなことをする方とは思えません。どちらかと言えば事故か、寝坊か、旦那さんにバレたか、と……」 「あー、確かに」  生田の声にはまだ、早苗の気まぐれに振り回されただけだという気楽さがあった。
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