絵麻【9】

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「お忙しいとは思ったのですが、あの、あんなことがあったものですから、もし、早苗さんの身に何かが起きていたらと、その考えを振り払うことができなくて……。不躾なことだと重々承知しておりましたが、生田さんにご相談する以外に手のうちようがなかったものですから」  絵麻の必死な声が発せられたあと、生田はまた数秒の間を置いて、今度は真面目なトーンで応答した。 「そうですね。うーん、確かに。正直、先輩があんなことをする方だとは思っていませんでした。そうでしたね」  生田は早苗と2週間会っていなかった。最後に会った日の事件が非日常な出来事だったため、今現在の平穏な日常と剥離してしまっていて、すぐに繋げて考えることができなかったのだ。  確かにこの進藤という女性の言う通りだ。すっぽかすような人ではないし、寝坊というイメージもない。先輩にバレたか、事故か、それらの可能性は大きく感じられた。 「進藤さん、今どこにいらっしゃるのですか?」 「えっと……、あ! あの、生田さんとお会いしたファミレスの駐車場です」 「承知しました。すぐに向かいます。えっと、15分もかからないと思います。それまでに、先輩にも連絡してみます。着く前に何かわかったら電話します。少々お待ち下さい」  落ち着いてはいるが、きびきびとした口調で一息に言った。 「わかりました」  絵麻が言い終わるかの寸前で通話が切れた。
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