絵麻【9】

9/14
前へ
/227ページ
次へ
 生田との通話が切れた13分後、黒のセダンがファミレスの駐車場へと入ってくる姿を運転席から捉えた絵麻は、セダンが停車する前に車から降りて足早に向かった。  生田は自分の車へと向かってくる女性の姿が見えるとすぐにエンジンを切って降車し、既に目の前にまで来ていた絵麻と向かい合った。 「お久しぶりです」  生田は落ち着いた口調で、心配することはないから大丈夫ですよとでも言うような、朗らかな笑顔を見せた。 「15分ぶりですね。それでどうですか?」 「はい、先輩に連絡がつきましたが何も知らないそうです。朝もいつも通りの様子だったと仰っておりました。それよりも僕から早苗さんの名前が出た上に、今どうしているのかと聞かれて、その問いに対する理由を説明するのに苦労しました。しかも業務時間中ですからね。適当に誤魔化しておきましたが、その説明でここまでくる時間を丸々使ってしまいましたよ」  生田は、夫である智也が無関係だとわかり、もう早苗の身の上には何も起きてはいまいと安堵して余裕を見せていた。 「そうでしたか。旦那さんにバレて、タブレットもスマホも取り上げられて自宅に軟禁されたのではと考えていましたが、それは違うようですね。ではなぜでしょう?」  安堵しつつも不可解だという表情を崩さない絵麻を見つめたまま、生田は自分の車を指して言った。 「とりあえず、自宅へ行ってみましょう」 「あ、はい」  考え込んで俯いていた絵麻は、生田の言葉を受けて顔を上げ、生田と視線を合わせて頷いた。 「自宅で何かあったのかもしれません」  見せていた余裕を引っ込めて真剣な表情でそう言うと、生田は運転席に乗り込んだ。絵麻もすぐに助手席へと回り込んで乗車した。  ファミレスから5分もかからなかった。柏木家の契約している駐車スペースへ車を停めると、足早にアパートへと向かう。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加