絵麻【9】

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 早苗の自宅の前へと到着し、インターフォンを鳴らす。  30秒待ったが応答はない。もう一度鳴らす。  ドアへ聞き耳を立ててみたが、何も物音がしない。  生田は躊躇いがちにドアを二度叩いた。 「早苗さん、ご在宅ですか? 僕です、生田です」 「サカさん、EMAです。あの、どうかされましたか?」  絵麻も続いた。  20秒ほど待ったが静寂しか返らない。二人の耳には、小学生の叫ぶ声、犬の鳴き声、クラクションの音などが遠くの方から断続的に聞こえるだけだった。 「ご在宅ではないようですね」 「うーん」  絵麻はひらめいて、ドアノブを掴むと、それを引いた。  ドアは気密を保つゴムの感触を伝導しながらゆっくりと動いた。鍵は開いていた。 「サカさん!? すみません、開けちゃって。いらっしゃるのですか?」  絵麻は勝手に開けてしまったことに罪悪感を覚えつつも、心配の方が勝り、宅内を覗き込んだ。 「サカさん? 入ってもいいですか?」  絵麻は声を張り上げる。 「早苗さん?」  生田も応戦し、絵麻の斜め後ろから宅内を覗き込むと、絵麻の位置からは見えなかった部分が、生田の位置からは見通すことができた。 「早苗さん!?」  声に動揺の色が混じった。  慌てて靴を脱ぎ足早に廊下を進む。生田の突然の挙動に驚いた絵麻は、生田の姿を目で追いながら後に続いた。  生田は廊下からリビングへと入っていく。ソファの近くにあるローテーブルの影に人の足が見えた。  絵麻が捉えたものは、サカがローテーブルの横に倒れている姿だった。目は閉じていて息が荒い。駆け寄ると、頭から赤い染みが広がっているのが見えた。 「サカさん!」「早苗さん!」  二人は同時に叫んだ。
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