絵麻【9】

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「ちきしょう。まさかこんなことになるなんて。どうすればいいんだ!?」  智也の頬に涙が伝っていた。 「身体は生きてても、死んでるようなもんじゃねーか! もう死ぬまで病院から出られない! 俺はどうしたらいいんだ? 死ぬまで入院費を払わなきゃなんねーのか? いったいいくらかかるんだ? 軽く押したくらいでこんなことになるなんて! ふざけてる……冗談じゃない!」  智也は悲鳴に近い声でそう叫ぶと、 「中途半端に生き残りやがって!」  そう吐き捨てて立ち上がり、待合室の出口へ向かった。ドアの前で立ち止まると、生田たちの方へ振り返った。 「ここに居てももうやることはない。出ていけって言われるぞ。俺は帰る」  二人に視線を合わせずにそう言葉を吐くと、荒々しい所作で部屋から出ていった。  呆然としたまま智也の消えていったドアを見つめていた絵麻は、生田の方を向いて言葉を投げかけた。 「なんて言いました?」  絵麻の声に生田がのろのろと反応する。 「え?」 「あいつ、なんて言ってました? 軽く押しただけとか……やっぱりあいつが? 信じられない!」  怒りに震えた絵麻の声は、途中で怒号に変わった。 「入院費がどうとかも言ってましたよ。こんな時にそんなことを……」  絵麻は身体の震えを抑えられない。 「信じられない……自分のことしか考えられないの……?」 「……先輩は素直というか、正直なところがありますからね。家族として気にかかる問題だとは思いますから、本音がつい出てしまったんでしょうね」  生田も力なく宙を見つめたまま、言葉を漏らした。
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