早苗【2】

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早苗【2】

 早苗は、いつもよりも早めに目が覚めた。今日は土曜日である。  智也は、休みの日になると昼まで寝ていることが多いため、その間は自由時間となる。  智也は一人で出かけることはめったにないため、休みの日は一日中一緒だ。だから早苗にとって、智也が起きてくるまでの時間が貴重だった。  自由時間とはつまりタブレットを使用できるということだ。早速取りに行こうと思って隠し場所へ向かう前に、念の為智也の熟睡度をチェックしようと智也のベッドを覗くと、智也の姿がなかった。  思いがけないことで、早苗は息を飲んだ。タブレットの隠し場所へ向かいかけていた足を止め、何気なく別の物を取る振りをした。薄暗い寝室の中、どこかで見られているかもしれないと焦ったからだった。  しかし見渡しても、智也の姿は見えない。その時、廊下の外でドアの閉まる音がした。ビクッと体が反応し、ドアの方へ目を向ける。  智也が入ってきた。 「起きた? 今日は実家に行くから」 「え……。うん、わかった」  早苗は午前の自由時間が潰れたショックと、義実家へ行かなければならなくなったことに対する緊張感で、一瞬声が詰まった。  智也は、出かける時もその行き先も事前に相談はしない。全て一人で決めたあと早苗に命令をするだけだ。早苗は、一方的に決められた予定をぬかりなく実行できるように準備をする。  智也が行きたいと思った場所へ、行こうとする時間に合わせて、いつでも行けるように迅速に準備を終わらせて、待機していなければならない。  義実家は、車で20分ほどの場所にある。早苗の実家がある街から息子が進学した大学のある街へと、一家で引っ越してきたのは5年前だった。  たまたま義父の転勤先が息子と同じ街で、定年まで移動はないだろうからと、賃貸生活をやめてこちらに家を建てたのだった。
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