早苗【10】

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「すぐに図書室へ」  早苗を一瞥したあと、軽快な動作で階段の方へと身体を回転させたカミーユは、キビキビとした足取りで上っていく。  散歩で乾いた喉をお茶で潤したいと欲求していた早苗は、一瞬、用意されているであろうダイニングルームの方へ物欲しげな視線を向けたが、今すぐにカミーユに続かなければ後々面倒だと思い直して、階段の方へ足を向けた。  図書室へと入った二人は、マホガニーの重厚なデスクに向かい合って腰を掛けた。 「サンドリーヌ様は来月で16歳になられるのですから、そろそろ語学は終えて科学に入らねばなりません」 「わかっておりますけど、トゥーロン語も学びたいわ」 「もう、ニーム語、カーン語、ブレスト語と基礎以上の言語まで範囲を広げすぎているのに、まだ足りないのですか?」 「ですが、色々な本を読むためには、書かれた言語を知らないと読むことができません。まだまだ足りないわ」  呆れた、とでも言うような視線を早苗に注いだカミーユは、議論を避けて学習スケジュールへと話題を変えた。  学習が一区切りするとランチの時間になり、カミーユは下がった。早苗はダイニングへ降りて、ようやく喉の渇きを潤すことができた。  勉強中もお茶くらい出すべきだわ。早苗は、今度母にそう提案しようと心に決め、ランチを進めた。
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