早苗【10】

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 思考は今朝の散歩での出来事へと向かった。不思議な夢見心地の感覚をもう一度思い出したかったのだ。  この世界がもしも夢だったらどうだろう。どこか別の世界に本当の自分がいて、眠るとここへやってくる。  普通に考えるならば逆だろうけど、今朝はなんだか『やってきた』という感覚があった。 「サンドリーヌ様、食後はコーヒーになさいますか、紅茶になさいますか?」  使用人に声をかけられて、早苗は意識を戻された。 「あ、えーっと、コーヒーにします」  使用人が一礼して立ち去る姿を目で追いながら、早苗の中に新たな疑問が浮かぶ。  私はサンドリーヌであるれど、早苗でもある。私は自分のことを早苗だと認識しているけど、サンドリーヌでもあると理解している。今までそこに疑問を抱いたことはなかった。なぜだろう。  夢に見た何かが早苗の頭をかすめた。  あれ?私は誰かと結婚していて、その夫に強く殴られたり突き飛ばされたことがあるような、そんな記憶が微かにあった。あれは、早苗の私だったのだろうか。ここにいるのは、サンドリーヌの私?  早苗は考えを進めようにも、記憶の切れ端は掴もうとするなり目の前から消えてしまうため、ハッキリと認識することができず、整理して考えることができなかった。  使用人の持ってきたコーヒーを飲み終えると、記憶を辿ることを諦め、現実の学習の方へと意識を向けた。
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