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父は自分を力づけるように言葉に力を込めて続ける。
「お二人がご提案してくださったように、あの男に対してできうる限りの罰を与えてやりたい。いや、当然の仕打ちです。早苗を苦しめた以上のものは与えられないかもしれないが、できる限り、やれる限りのことは……」
テーブルに乗せた両手の拳をさらに強く握った父はそのまま俯いた。様子に気づいた隣の母が、代わりに言葉を継いだ。
「私達にできることは全てさせていただきます。甘えたいわけではありませんが、すぐにそこまで考えが至らなかったものですから、先にお二人にご提案を頂いて、それに乗る形になってしまって恐縮ですが、もしお二人のご負担にならないようでしたら、助けていただけるとありがたく存じます」
北島夫妻は涙で滲んだ目を絵麻と生田の方へ向けると、同時に深々と頭を下げた。
5分後、面会へと向かった北島夫妻を見送った絵麻と生田は、探偵事務所に予約の連絡をいれ、空きがあることがわかるとすぐに足を運び、午後には契約することができた。
探偵事務所の前で生田とは別れた。生田は今日の欠勤のためにしばらく休みは取れないかもしれないと絵麻に詫びを入れ、電話はなるべく出るようにするからと伝えて、車に乗り込み去っていった。
絵麻も自分の車に乗り込み発進したが、そのまま自宅へ帰る気にはなれず、しばらく幹線道路を適当に走っていた。
探偵事務所に依頼をしたのは3点。
早苗の夫、智也の不倫の証拠。生田が少し周りに探りを入れただけで、不倫相手は智也の会社の新入社員だということがわかったため、不貞の度合いと証拠を調べて欲しいと依頼した。
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