絵麻【10】

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「本気になるって正直よくわからないのですが、今まで恋愛してきた相手にはなかったものをたくさん感じたんですね。お会いするたびにもっと会いたくなる。早苗さんと一緒に過ごしたいという想いは、何度お会いしても減ることはありませんでした。ですが先輩の奥様ですし、どうすることもできないので押し殺そうとしていました。わざと会わないようにしたりして忘れようとしていました。でもこんなことになってしまうなんて……。先輩に対して腹が立っています。この怒りと、早苗さんに対する後悔やら罪悪感やらの思いを、どう処理したらいいのかと。何かできることをしたい、できることはあるはずだと思いましたが、具体的にここまでは考え至りませんでした。進藤さんが行動されて、それにご一緒できたことはとてもありがたく思っています」  生田の言葉に虚偽があるとは感じられなかった、いや、絵麻は感じたくなかった。  生田の言葉を聞いて、改めて生田を引き込んだことは正解だったと安堵した絵麻は、これからどう展開しようがもう後悔することはないと、気持ちを改めた。  2日後、弁護士に発送してもらった内容証明が智也の会社と、智也の不倫相手の自宅に届いた。  それがわかったのは、激昂した智也からの電話があったことを早苗の母が知らせてくれたからだった。  仕事のため自宅では受けとれないだろうというのは表向きの配慮で、本意は、内容は見えずとも内容証明が届いたことで少なからぬ噂のネタになるだろうと見越して狙ったものだった。  不倫相手は実家に住んでいるようなので、仕事で不在の時間帯を狙って、敢えて両親の目に留まるように仕向けた。
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